「悪人たちのピタゴラスイッチ」最後まで行く ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
悪人たちのピタゴラスイッチ
この手の映画に、真顔で細かいツッコミをするのは野暮というもの。それは無理やろ!ありえんやろ!的な面もノリとして受け入れて、楽しく鑑賞するのが正解な気がする。なお、韓国版は未見。
岡田准一のびくびく挙動不審キャラはなかなか新鮮だった。終始どこかコミカル。突然の呼びかけや携帯のコール音にあたふたしまくり。状況的に仕方ないけれど、ちょっとびびり過ぎてて余計怪しまれそう。
藤井監督の言う通り、工藤は愚かだけどキュートだ。棺に尾田の死体を入れた直後のシーンのごまかし泣きや、尾田のふりをして通話するシーンは特に笑ってしまった。
大河の織田信長から工藤のような怯えまくる小悪人(といっても主役だけど)までものにして見せるひらパー兄さん、素晴らしい。ちなみに岡田出演作品では毎回のことらしいが、今回もひらパーがパロディポスターを作っている。
綾野剛、悪い顔が上手いよね。彼の顔芸も本作の白眉だ。
フィクションの悪役が、リアルな「悪さ」と「人間としての物語」を漂わせていることは作品の成否を左右するが、矢崎はそれらを備えていた。狂った形相、止まらない勢いで工藤や植松を殴る矢崎は怖かったし、何故そこまでの狂気に至ったかも中盤以降で腑に落ちた。
工藤視点のA面(死語)と矢崎視点のB面で描く親切構成が、謎解き的な意味だけでなく、二人のキャラクターをしっかり観客に伝えるのに功を奏している。
やっと死んだな……死んでないんかい!の天丼で、最後は笑えてきてしまった。矢崎は上司の植松をボコボコにし(千葉哲也のワルぶりもよかった)、金庫の金を仙葉に奪われて、工藤と争うことの意味ももはやないが、自分の人生をぶち壊されたことの恨みだけが彼の中に残って(悪いことしてるんで自業自得だけど)、それを工藤にぶつけたい、そんな状態だったのだろう。
そしてまたですよ、また柄本明。最近の邦画でエモいおっさん役といえば柄本明。しかも今回、結局は柄本明(仙葉)の作ったピタゴラスイッチだったという。
いや、名演怪演ばっかりで、出れば必ずその場をかっさらうのは見事としか言いようがない。でも……これだけ出ずっぱりだと、個人的には、もっといろんな俳優で狂気のおっさんを見たくなる。この人意外とこんな役も合うんだ、と驚きたい。
こういう役といえば柄本明、それでいいのか邦画界。と思ってしまうほどの出演頻度。使いたくなる気持ちはよくわかるが。しかも出る映画がだいたい面白そうだから困る(?)。最近、面白そうな邦画はまず柄本明の存在を確認するようになってしまった。
本編の話に戻る。
矢崎の車の爆破、劇伴の雰囲気も相まってインディ・ジョーンズみのあるお寺の隠し金庫など、決着がついたかのようなシーンが何度も訪れる。その度に、死んだと思った矢崎が復活し、血まみれのままどこまでも追ってきて、工藤が追われる状態のまま幕が降りる。
ふたりの決着が何もつかないラストなのに、謎のスカッとした余韻。工藤と矢崎の、極限まで追い詰められた感情が撒き散らす人間臭さを堪能できた、そういう満足感があるからだろうか。 韓国版も見てみたい。
岡田准一さんの挙動不審キャラ、確かに可笑しさもありました。私は車のトランクや棺の中から呑気に鳴り響く携帯電話の着信のメロディーにヒヤヒヤした思いで見ていました。韓国版、まだ観てないとのこと、日本のリメイク作品とは国民性の違いがあって観る価値あると思います。