「映像を楽しむ作品」マイ・エレメント SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
映像を楽しむ作品
地水火風のエレメントが暮らす世界。
僕は個人的には、こういう抽象的概念をキャラクター化した作品が大好き。
たぶん、普段から抽象的概念をキャラクター的に解釈して考えているからだと思う。数字とか、色とか、鉱物とか…。イデアの世界とでもいうのかなあ…。
地水火風ということは古代ギリシャの四元素論ということなので、現代化学の元素(水素とかヘリウムとか)と違うということを知ってないと混乱するかも。
四元素論では火も元素の一つとされていた。火の元素の存在は化学の研究の歴史の中で探究されていき、最終的に「フロギストン説」というかたちで理論化されていったが、18世紀ごろ、主にラヴォアジエによって否定されて消えていった。
現代では自然に存在する元素は約90種類。でも、この世界の全てが4種類の元素の組み合わせでできている、という古代ギリシャの四元素論はとても魅力的で、だからいまだにさまざまなファンタジーではこの世界観が共有されているのだろう。
この世界でのエレメントの世界はとても色鮮やかで楽しい。「形のないもの」「透明なもの」「透けるもの」という少し前のCGでは描くことが難しいものがふんだんに表現されていて、映像としてすごく楽しめる。こういう作品こそ映画館で観たい。
火のエレメントは貧困な移民、水のエレメントは裕福なホワイトカラーの白人みたいな感じなので、エレメントシティはアメリカ社会をあらわしてるんだろう。水が白人なら、火は中国人や韓国人? 土や風はヒスパニック系や黒人?(まあむしろ明確に特定できないようにしてるのだろう)
エレメントのキャラづけには既存ファンタジーの影響もある気がする。火と水は、ドワーフとエルフを思わせる。ドワーフは背が低くて性格は荒っぽく、火を使った加工が得意。エルフは賢く争いを好まないが、傲慢で邪悪な者もいる、みたいな。
エレメントであることを活かしたギミックが面白い。水のエレメントが火を点ける手段として、自分をレンズにしたのは面白かったし感動した(でも科学的ないちゃもんをつければ、レンズで火をつけるには炎由来の光では無理で、平行な光線である太陽光でなければならないし、レンズは正確な凸レンズでないといけない…)。
火が砂をガラスにする能力がある、というのも面白い。でも主人公しかそれをやってないので、なぜ主人公だけがそれをできるのか、という説明がほしかった。
こういう作品でいろいろ理屈で突っ込むのは野暮だと分かってるんだけど、やっぱいろいろ気になる。たとえば、異なるエレメントの間で子供は作れるのだろうか? この作品の中では混血らしいエレメントは登場してないので、異なるエレメントのカップルはエンバー達が初だということになるのかな? しかし、エレメントというのは混ざるとエレメントではなくなってしまうと思うので、混血はできない、というのが結論ぽいかな…。
ストーリー自体はすごくありきたり。でも、エレメントたちの生活の様子を楽しむのがこの作品の肝なんだとしたら、ストーリーはありきたりでもいい気がする。
最後のオチだけちょっと不満。ウェイドは不定形になれる能力があるんだったら煙突みたいなとこを抜けて逃げられそうだし、壁に染み込んで助かるというのも後付けみたいに思える。
火のエレメントが死ぬ条件が水にかけられて火が消えることだということは示されているのに対して、水のエレメントが死ぬ条件が明確に示されていないのは良くない。
ストーリーがありきたりということは、キャラもありきたりということ。エンバーやウェイドに特別な魅力は感じなかった。
世界観そのものが面白かったから面白く観れたけど、ストーリーやキャラが弱いので大ヒットは難しいか?