「ミステリーですよ!」ミステリと言う勿れ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ミステリーですよ!
人気コミック→TVドラマ化→劇場版。昨今の邦画の定番。
ほとんどが見てる人やファン向けだが、時たまそうでなくとも見れる作品もある。
最近見た中だと『TOKYO MER』がそうだったが、本作も。
劇場で何度も何度も予告編は目にしていたが、ちと面白そうだなと思っていた。ミステリーだし。
でも一番の要因は、予告編でも言っていたある名作のタイトル。『犬神家の一族』。
人気コミック基だから、人気TVドラマの劇場版だから、菅田将暉だから…ではない。ただただその一点。
私にとって『犬神家の一族』は神映画の一本。だって本作、『変な家』なんかより遥かに正統な『犬神家の一族』だった!
広島を訪れていた大学生・久能整。
彼の知人・犬童我路(演・永山瑛太)の紹介で、女子高生・狩集汐路があるバイトを持ち掛けてくる。
彼女の家は広島の旧家。当主が亡くなり、血筋の4人の孫がその遺産相続候補に。
各々古い蔵が与えられ、遺言の中の謎を解かねばならない。
整は謎解き要員と、汐路のボディガード。
と言うのも、狩集家は殺し合う一族。祖父の代もその前の代も、何人も不審死が。汐路の父親も…。
ただの偶然か事故か、本当に殺されたのか、それとも今の時代に旧家の呪いか…?
整は謎とこの旧家に纏わる秘密を解き明かしていく…。
旧家。その一族。遺産相続争い。一連の出来事の真相は一族にとっては呪いのようなある事件…。
ね、もうメッチャ『犬神家の一族』。そそる~!
現代が舞台なのに旧家のミステリーとか一族の遺産相続争いとか、事件の真相も法律的にはどうなのとか、まあ言い出したらキリないが、でも見ている時はそれら引っ掛からないくらい、原作コミックもTVドラマも見てないのに、大変面白く見れた。
また、横溝風王道ミステリーでありつつ、所々ユーモアや捻りを効かせた現代風。
それも鮮やか。
ミステリーには謎を解き明かす名探偵が必須。
本作は探偵ではない。名探偵のポジション。
大学生の整。
まずその風貌にツッコミ。天パにいつもマフラー。
性格はかなり癖あると言うか、“面倒臭い”。
トレードマークはそのお喋り。一度気になった事は、「僕、常々思うんですが…」と話し出したら止まらない。
探偵ミステリーの定番。主人公探偵は少々風変わり。しっかりそれを踏襲。
勿論、推理力、記憶力、人間観察眼は抜群。
例えば遺言発表の席で、与えられる蔵の名が呼び挙げられた時、“足りない”。他者の些細な言動も見逃さない。
知識も豊富で、映画ネタが面白い。ホラーやミステリーの“あるある”には、僕常々思うんですが…。ホント、そう思う。
変わり者ではあるが、心根は優しい。
本作の醍醐味は、ただ単に謎解きミステリーだけではなく、人の心の闇も解きほぐす。
遺産相続候補者の一人が子供をスパイにしようとする。それを“セメント”に例える。またこの時の「子供の時、バカでしたか?」。
一族の闇ではなく、あなた自身の闇。
特に“女の幸せ”について投げ掛けた疑問は必聴!
クライマックス、ある人物に真犯人からトラウマになりそうな言葉が…。その時も「あなたは何も悪くない」。
数々の名言が響く。(それはイコール、原作者の才)
ユーモアたっぷりのキャラもお喋り長台詞もその人となりも、菅田将暉の好演あってこそ。
原作でも人気の高い“広島編”。いざ話が始まるとそうでもないが、開幕は広島観光気分。
この劇場版の実質主役の原菜乃華。彼女を含め遺産相続候補者の若手たちの演技がちとビミョーだったかな…。オーバーリアクションだったり、過剰な広島弁だったり…。
その分、話の面白さで充分カバー。ユーモアとシリアスのこのバランス!
天パとストパのヘアトーク、何て緩いと思いきや、重要なヒント! 魔よけグッズなどあちこち張り巡らされた伏線も。
二段構成ミステリー。序盤、汐路を見舞う珠世さん的危機。実はこれ、汐路の自作自演。汐路の父親の居眠り運転によって他の遺産相続候補者の親も亡くなり、親族一同から責められる。父は悪くない。死の原因を父の過失から殺し合う一族の呪いに仕向けようと…。
整があっさり解決。ここでまだ一時間も経ってない。まさかこんな小事件解決でめでたしめでたしでは勿論なく、ここからいよいよ…。
整も何かしっくり来ない。本当に汐路らの父親は事故…?
今一度推理し直してみると、やがて本当に狩集家の呪いとでも言うべき秘密が…。
汐路らの父親は何かを調べていた。それを知ったが為に…。やはり事故ではない、殺されたのだ。
それも代々、一族のある特定の人物が…。
一族の忌まわしい過去を基にした舞台の朗読劇のDVD。
“鬼の集い”。これ、マジで恐ろしい…。金田一レベル。
3匹の鬼、何となく予想付いた。真犯人もあるシーンで予想付いた。
が、忌まわしい過去と共に解き明かされていく真相。
鬼、殺された特定の人物、蔵、日本人形、父の遺した手帳とUSBメモリー…。全てが繋がっていく。
真犯人と動機は異常。あの言葉が響く。
一族の闇じゃない、あなた自身の闇だ。
後味悪い最後にも出来たかもしれない。
が、整は人の心の闇も解きほぐす。
探していたもの、探していた人も見つかる。その人からあるプレゼント。
それは亡き父親たちからの思い。
一族のこんな呪いは我々の代で終わらす。
それが子供たちへの遺産…。
温かなラストに、私の心も解きほぐされた。
タイトルの“ミステリと言う勿れ”とは、原作者曰く、「ミステリーなんて難しいものは描けない」という謙遜から。
いやいや、ユーモアや心の癒しもあって、新感覚の立派なミステリーですよ!