「是枝裕和カンヌプロジェクト第○弾」怪物 Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
是枝裕和カンヌプロジェクト第○弾
「カンヌで賞を獲って興行成績をあげる」というポリシーで作られた作品だと思うの。
実際に興行成績はあがるから、狙いは間違ってないね。創り手が唯々諾々とそれに従うのかというところだけど、たまには良いよね。
安藤サクラ視点、永山瑛太視点、麦野湊視点から描かれる羅城門形式なのね。
メインテーマは少年二人の同性愛感情と周囲の無理解だと思うんだけど、これを描くなら安藤サクラ視点と永山瑛太視点は不要なの。
「お前の脳は豚の脳だから」と言う中村獅童の重要度があがって、そこに少年二人、永山瑛太、安藤サクラが絡んでいけば描けるはず。
たぶん最初はそうだったんじゃないかな。
「これじゃ売れない」と考えた誰かが「学校のことなかれ主義も描きつつ」「いっそ羅城門形式で」「みんなでカンヌ獲りましょう!」「パルム・ドール!」と企画会議が盛り上がって決定したのでは。
それを形にする坂元裕二の技巧はすごいね。
ただ無理もあって。安藤サクラが学校に乗り込んだときの永山瑛太の対応が無理あるのね。高畑充希に色々と吹き込まれていたから、それが出たという設定にしてるけど、後の永山瑛太の対応を見るとそのキャラクターに説得感がない。観客をミスリードするために無理な設定になってるの。
田中裕子に「誤って孫を轢き殺した」という無茶な事情を負わせてるんだけど、これがないと学校のいい加減な調査が説明つかないのね。学校に真摯に対応されると問題が大きくならなくて一般大衆受けが疑問だったんだろうな。そんな理由で重い事情を背負わされた田中裕子夫妻は可哀想だったな。挙げ句に唐突に良い話風で「誰かしかなれないのは幸せなんかじゃない」って語らせて浮いたシーンを作っちゃってるし。
坂元裕二の超絶技巧はすごいけど、技巧ってのべつまくなし使うもんじゃないよね。ドラマを描く中で「ここだ」というシーンを効果的にするために用いるはず。この作品では技巧のための技巧になっていて、坂元裕二技巧鑑賞会になってたな。
是枝監督の画は独特なんだよね。少し引いて撮る特徴があるのかと思ったけど良く分からない。それでその画がそこまでうまくないと思うの。スクリーンショットを集めても写真集にはならない感じ。「うまい文章を書こう」と思って書かれた文章を読むと辟易するけど、その感じに似てたな。
普通の作品を創るときは、マイナスになる要素もあるんだけど「カンヌを獲る」と考えたときはプラスに働くんだろうな。実際、脚本賞獲ってるし。
売れるための作品を作ろうと思うと、どこかで「観客はこの程度でしょ」という部分が出るんだけど、この作品はそこを強く感じさせられてしまうので今ひとつでした。
しかし映画館でみたので「賞を穫れば人は来る」はあたってるね。
このセリフに違和感を感じる方は少数派で、多くの方はここのシーンに感動したと書かれているので、多分Scottさんのおっしゃる通りなんでしょうね。私もそういう意図なんだろうとは思いました。が、観客は湊の悩みを知っているけど校長は知らないはずだから、おかしなセリフだと思いました。お返事ありがとうございました。
ゆり。さんコメントありがとうございました。
「同性愛者も同じように幸せになれるのが幸せ」みたいな含意のある台詞で、描きたかったテーマと思われるので、削れなかったんだろうと思います。
でも色々とやっているうちに、台詞の置き場所が不自然で唐突になったんだろうと思いました。
失礼します。「誰かしかなれないのは幸せなんかじゃない」この場面での脈絡の無いこのセリフ、 唐突な感じがしました。それに、何を幸せと感じるかは人それぞれだし、自分だけの幸せを追求する事は人生を豊かにすると思うので、この言葉には全く共感できませんでした。