劇場公開日 2023年6月2日

「小学5年生という絶妙の設定」怪物 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0小学5年生という絶妙の設定

2023年6月4日
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鑑賞方法:映画館

物事は人によって見え方感じ方が異なってくる。だから同じ出来事について視点を変えることで真相を描いていく物語の手法が成り立つ。本作では安藤サクラ演じる母親の視点、永山瑛太演じる先生の視点、そして子どもたちの視点を順番に見せることで真相を描く。
怪物だーれだ?のフレーズが予告編で頻繁に使われていたから、ちょっとしたミステリーかと思わせておいて(ミステリー的な部分もあるが)、実は2人の少年の関係を描いた物語だった。予告編以上の情報を入れていなかったから少し驚いた。
やはり坂元裕二の脚本はすごい。あの出来事は実はこんなことだったんですってさり気なく見せる伏線回収。周りに理解されないままあの2人の少年が、関係性を深めていく展開がどうしようもなく切ない。もっとどうにかならなかったの?という思いと、何かを切り開くにはまだ幼いよなという思いが入り交じる。そして愛と友情が曖昧に混じり合った関係性。そういう意味で2人が小学5年生というのが絶妙の設定だった。あれが中学生になるともっと性的な匂いが強くなって別のテイストになっていたに違いない。
最後の2人の笑顔と咆哮のシーンが、問題は何も解決していないのに幸福感にあふれていて、切なくて美しかった。ラストシーンの別の解釈を聞いてなるほどと思ったが、明確な決定打はない。あくまで観ている側に委ねられた終わり方だ。本来あまり好きな手法ではないが、あの美しさにこのラストはこれでいいと納得してしまった。安藤サクラや永山瑛太、田中裕子たちの演技もよかったが、2人の少年の演技が特に素晴らしい。あの子たちのこれからを期待したい。
是枝裕和監督作品で一番好きだったのが「海街diary」だったが、本作はそれを更新することになった。どうやら個人的には誰かが作った話を監督した是枝作品の方が好きみたいだ。

kenshuchu