劇場公開日 2023年6月2日

「理解できぬ他者は、皆々モンスター」怪物 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5理解できぬ他者は、皆々モンスター

2023年6月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

『黒澤明』の〔羅生門(1950年)〕でお馴染み、
主要な三者の視点で一つの出来事を描く。

小学生の息子を持つ
シングルマザーの『麦野早織(安藤サクラ)』。

担任教師の『保利(永山瑛太)』。

そして『早織』の息子の『湊(黒川想矢)』。

夫々の順に語られ、同じ事象であるハズなのに、
度毎に異なる側面を見せ出すのはお約束の流れ。

『早織』にしてみれば息子は被害者で
『保利』は「モンスターティーチャー」。

『保利』にとって『麦野』親子は「モンスターペアレント」と「モンスターチルドレン」。

が、不思議なことに『湊』にとっては
必ずしも『保利』は忌避する存在ではない。
母親との関係も、思春期にありがちな断絶も見られない。

とは言え、母親からすれば、息子の些細な変化にも過敏に思いを巡らす。

傍から見れば、『早織』が贔屓の引き倒しで
不確かな噂や外見に過剰に反応した結果とも見える。

そしてまた、子供は嘘をつく。周囲に流されやすい特性もあり。

勿論、大人もそれは同様。
とりわけ学校を守ろうとする校長の『伏見(田中裕子)』の存在も事態を混乱に導く。

こうした物語りでは、最後は三者三様の混沌になるケースが多いのだが、
本作ではそれを善しとしない。

起承転結の輪郭が次第に明確になり、
最後に鑑賞者は理解し安堵を得る。

久々にぐいぐいと引き込まれるような語り口に
固唾を飲んで観入ってしまった。
「カンヌ国際映画祭 脚本賞」は
伊達ではないとの納得感。

そして邦画には珍しく、子役の男児が二人とも演技が巧い。
『湊』の友達の『依里(柊木陽太)』も含めてのことだが
これは極めて珍しいこと。

ジュン一