劇場公開日 2023年6月2日

「誰の心の中にも住む怪物」怪物 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5誰の心の中にも住む怪物

2023年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

まずは、カンヌ映画祭・脚本賞、おめでとうございます。

モンスターとしての『怪物』は、勿論出てこない。しかし、この世の中、誰もが抱えているエゴや傲慢、そして葛藤などの心の闇を、是枝監督流に見事な『怪物』として仕立て、観客に訴えかけてくる作品である。『王様のブランチ』でLiLiCoが、「観終わった後、それぞれがどう受け止めるか考えて欲しい」と紹介していたが、確かにその通り。いろいろな問題提起の中で、どう言葉で表したらよいか、考えてしまう内容だった。

個人としては、基本的に学校モノは嫌いである。実際の学校の現場や職員の言動とかけ離れたものが展開され、辟易することがしばしばある。本作も前半は、いじめの隠蔽する管理職、頼りない教師を全面に打ち出し、「またこのパターンか…。これが脚本賞に輝いた作品?」と正直、席を立とうかと思ったほど。

しかし、後半は、全く違う展開となった。少年のいじめの真相や、頼りない教師として映し出されていた担任の真意、校長に纏わる悲劇の真実、そして2人の男の子が抱えていた葛藤が、次第に紐解かれていく中で、前半に映し出されてきたエピソードが、180度違ったものとなって展開されていった。

最後の落としどころも、現代を象徴するあの問題へと導くあたりは、全く予想だにできなかった展開。サスペンスと思っていたストーリーが、いつしかヒューマン・タッチな、少年のデリケートな問題への提起となって、エンドロールを迎えた。改めて、坂本裕二さんの脚本賞も頷けたし、是枝監督のこうした作品作りの巧みさを感じる作品であった。

主演の安藤サクラは、安定感のある演技で、シングルマザー役を演じていたし、教師役の瑛太も、頼りない中にもシリアスな役所を上手にこなしていた。ただ、田中裕子の校長役は年齢からしても無理があるし、流石にあんな校長は存在しないだろう。

こうしたベテランの俳優陣以上に、輝いていたのは、湊を演じた黒川想矢君と依頼役の柊木陽太君。小学生ながらも、感情を押し殺した淡々とした演技が印象的で、自然な中にも存在感のある演技で、心に潜む『怪物』を表現していた。

最後に、音楽を担当した坂本龍一さんのご冥福を、お祈り申し上げます。

bunmei21
bunmei21さんのコメント
2023年6月12日

みかずきさん(^^)丁寧なコメントありがとうございます😊
是枝監督は、子供の心の襞を描くのが上手いですよね。その中で何か、社会への問題提起をし、私たちに宿題を残してくれるような作品作りをしていると感じます。
これからも、宜しくお願いします。

bunmei21
みかずきさんのコメント
2023年6月12日

共感ありがとうございます。
これまでも、様々な作品で共感ありがとうございます。
大変遅れてしまいましたが、フォローさせて頂きます。

私、10年位前から、キネマ旬報、kinenote、Yahoo映画レビューなどに映画レビューを投稿しています。現在の目標は2回目のキネマ旬報掲載です。こちらのサイトには昨年2月に登録します。
宜しくお願いします。

本作、ラストの小学生の親密ぶりに、作り手の性の多様性に対する暖かな眼差しを感じました。現実は厳しいが希望はあるという作り手の想いを感じました。

どんな作品でもハッピーエンドにして欲しいですが、本作のラストはハッピーエンドとは言えませんでしたがグッドエンドでした。

では、また共感作で。

ー以上ー

みかずき