「大人になった広瀬すずの魅力」水は海に向かって流れる bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
大人になった広瀬すずの魅力
同名コミックの原作を、『そして、バトンを渡された』や『そんな夜更けにバナナかよ』等を手掛けた、ヒューマンドラマの名手・前田哲監督が、映画実写化。少女から女性へと成長を遂げた広瀬すずを主役に、一度は切り離された家族の絆をテーマに、そこに淡い恋愛感情を盛り込み、複雑に揺れ動く心模様を描いている。
可愛い少女のイメージが強かった広瀬すずも26歳となり、大人の女性としての魅力も兼ね備え、本作の中でも、初々しい男子高校生・熊澤達也に淡い恋心を抱かせる、年上の同居女性・榊千紗を演じている。達也に対する態度も常に不機嫌そうで、でも、おいしいご飯を作ってくれるようなツンデレな態度が、却って、ピュアな年下男子にとっては、気になる存在へと変貌していく。そんな、高校生に対する歳上目線の演技も、本作の新たな広瀬すずの魅力だ。
高校に入学した達也は、通学に近いということで、親に内緒で会社を辞めて、漫画家となった叔父の住む家に居候することになる。その初日に、駅まで迎えに来たのは、不機嫌そうな態度の女性・千紗だった。実は、叔父の家はシェアハウスとなっており、千紗をはじめ、女装の占い師や大学教授が同居しており、風変りな同居人と一緒に、達也は暮らすことになる。
そんなある日、達也と千紗は、彼らの父と母がかつてW不倫をしていた事実を知ってしまい、一層、ぎこちない関係が生じてしまう。そんな折、達也と千紗が同居している事を知らない達也の父が、シェアハウスを訪れ、不倫相手の娘である千紗と面会してしまったことで、大きな波紋を呼ぶ。その事で、千紗自身が封印してきた母親の過去までもが明らかり、切ない過去を抱えた千紗に、達也は寄り添う中で、恋心を抱くようになっていくのだが…。
全編通して、これという盛り上がりはなく、淡々と物語は進行していく。その中で、千紗の母親への憎しみ、達也の千紗への恋心、達也を想う同級生の楓の感情等、それぞれの思いの揺らぎ心の襞を、前田監督ならではの繊細なタッチで表現している。ラストで達也と千紗が、なるようにしかならないと全てを洗い流すように、冬の海で笑いながら水を掛け合うシーンは、タイトルの意味合いが増す、印象的なシーンとなった。
共感ありがとうございます。
段々“年下の男の子”が大切な存在になっていく、戸惑いと寛容。正直アットザベンチの演技よりこっちのが好きでした、広瀬すず。小林秀雄と中原中也の映画は期待してます。