劇場公開日 2024年3月2日

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「たどり着かない移動。」すべての夜を思いだす 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5たどり着かない移動。

2024年3月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2022年。清原惟監督。多摩ニュータウン内を動き回る3人の女性の1日。失業中の女性は整理したはがき類から見つけた転居届を頼りに友人宅を探し、住宅のガスの検診を仕事とする女性は住民と関わり、幼馴染の一周忌を迎えた大学生は自転車を走らせながらその死に思いをはせる。持て余す時間を埋めるように無理に設定した目標を目指して歩く「徒労の歩み」、仕事として巡回しながらその都度の出来事に誠実に対応して歩く「注意力の歩み」、喪失を埋められないまま焦燥感そのままに自転車で疾走する「喪の走り」。三者三様の移動の様相が、時に交錯しながら、団地、公園、道路で展開する。ただ移動しているだけなのだが、構図もテンポも音楽もすばらしいので、まさに団地、公園、道路であることから引き起こされる情動が生み出されている。
見る―見られる関係のうち、見られる方が強調されている。主観ショットではなく客観ショット(そんな言葉あるのか知らないけど)が多用されている。まあ、見られている姿が描かれるということだが。わかりやすいのは3人目のダンスをしている女性。ダンスを正面からとらえたショットはなく、後ろ姿か背後に焦点となる人がいる横顔のみ。「ダンスをしている」のではなく「ダンスが見られている」表象。他にも多数。
移動し続ける3人だが、いずれも正しい場所にはたどり着かない。しかし、同じエリアを複数の形で移動する、ということが強烈に刻印されている。

文字読み