「長靴を履いた猫死神を噛む」長ぐつをはいたネコと9つの命 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
長靴を履いた猫死神を噛む
『シュレック』シリーズの人気キャラクター、“長ぐつをはいたネコ”ことプスを主役にしたスピンオフ第2作。
前作や『シュレック フォーエバー』はもう10年以上も前。そんなに経ってから続編が作られるとは…。
もうすっかり興味ナシ…? いやいや、これが素直に面白い。前作や『シュレック』シリーズを見ていなくても見れるのが有り難い。
ある時はお尋ね者、ある時はヒーロー。
巨大な怪物だろうと総督だろうと敵じゃない。この剣で一刺し、今日もまた伝説を作る。
闘い終われば、宴。歌を歌い、彼が居る所はいつもどんちゃん騒ぎ。
皆に愛され、自由気ままに生きる。
俺は長ぐつをはいたネコ。
だって俺には命が9つある!
え~と、これまでに何回死んだっけ…? 4回くらい…?
NO! 気付けば8回。後一回しか死ねない! …ってか、ゲームかい!
だけど俺様がそう易々と死ぬ訳ない。賞金稼ぎの狼…? 返り討ちにしてやる!
コイツ、なかなか腕が立ち、只者じゃねぇ…。
額に傷を負わされ、血が流れ、そこでプスはようやく命が後一つしか無い事と死の恐怖に気付く。
その場から逃げる。伝説の長ぐつをはいたネコの哀れ惨めな姿…。
もうこれまで通りには生きられない。あばよ、長ぐつをはいたネコ。別れを告げ、家ネコとして余生を静かに穏やかに生きる事に…。
しかし家ネコ生活は自由に生きてきたプスにとって地獄。餌は不味いし、トイレは皆の見ている前で…。嗚呼、どんどん呆けていくぅ~。
そんな時現れたヘンな輩。3匹の親子グマと一人の人間の少女の“家族”。
長ぐつをはいたネコを捕まえて彼の力を借りて、暗黒の森に落ちた“願い星”に願い事をする。
そうだ! 願い星にまた命を9つにして貰えばいい。
道中出会った仲間や同じく願いを叶えようとする敵も現れ、プスの新たな冒険の始まり始まり~。
『シュレック』と同じ世界観なので、おとぎ話をひっくり返したような世界。
“長ぐつをはいたネコ”自体もそうだが、おとぎ話のキャラやエピソードのあれこれを、コミカルでファンタスティックに、ブラックに。
これぞアンチ・ディズニーから始まったドリームワークス・アニメーション“らしさ”。それを久々に堪能。
キャラも秀逸。
プスは言うまでもなく。基本クールだけど、ユーモアもたっぷり。うるうる瞳は今回も健在。
プスの元フィアンセ。訳ありの過去。今は同じく願い星を狙うお尋ね者の牝猫、キティ。その気の強さにはプスもたじたじ。
3匹の親子グマと一人の人間の少女の“家族”。毒舌で何でも言い合う掛け合いは愉快。“家族”としての絆は…? ある理由から願い星を狙う。
同じく願い星を狙う本作のヴィラン。親から継いだ菓子工場を経営するパティシエの傍ら、様々な魔法グッズを収集する犯罪組織の巨漢のボス。部下の命を何とも思わない性格も憎々しい~。
特に印象に残ったキャラは…
ひょんな事から旅に同行する事になったチワワの“わんこ”。ちょっとお惚けだけど、ピュアで堪らなくキュート。プスの新たな冒険にとっても物語の展開上に於いても、間違いなく本作のMVP。
度々プスの前に現れる狼の賞金稼ぎ。自ら“死神”と名乗る異様な存在感…。一体、何者…?
プスの声は引き続きアントニオ・バンデラス。その他サルマ・ハエック、フローレンス・ピュー、オリヴィア・コールマンら豪華ボイス・キャスト。
吹替で鑑賞。前作や『シュレック』シリーズではプスの声は竹中直人だったが、今回は山本耕史に。何故交代?…という疑問もあるが、なかなか良かったのでまあいいか。
土屋アンナは地声丸出しで微妙。中川翔子は本人と気付かないほど声色変え、その上手さにびっくり!&さすが!
今回特筆すべきの一つは、アクション描写。
基本は滑らかなCGアニメーションだが、アクション・シーンになると、カクカク動きの2D&3Dハイブリッドの劇画風に。
『スパイダーマン:スパイダーバース』のような表現で、同作の影響力はここにも。今後のハリウッド・アニメーションはこの手法をどんどん取り入れていくのかな…?
テンポ良く、キャラも世界観も物語も表現も楽しい。
当たり外れの差激しいが、『バッドガイズ』に続いて、ドリームワークス・アニメーションの連続ホームラン。
でも、ただ楽しいだけじゃない。しっかりとした教訓やテーマも。
何より自分が好き。自惚れ、9つもある命を粗末にしていた。
命が後一つになった時、その尊さを知る。
命は一つしかない。それで充分と思える生き方を。
冒険や成長や出会い。
それらに気付いた時、きっと死の恐怖だって乗り越えられる。
あんなに怯えていたのに、命を大事にし、大切な仲間を思い、“死神”に対していくプスの姿は痛快であると同時に、最高にカッコ良かった。
それでこそ本当のヒーロー。
だって彼は、我らの長ぐつをはいたネコ!
ラストシーンも粋。
プスは新たな冒険へ。向かった先は…
『シュレック』がまた見たくなる。と言うより、
これに続く形で、好調と復活のドリームワークス・アニメーションの新たな『シュレック』を是非!