「血しぶきは無いが観終えてゾワッ」VORTEX ヴォルテックス La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
血しぶきは無いが観終えてゾワッ
血しぶきコッテリ系が持ち味のギャスパー・ノエ監督が、ホラー映画の記念碑的作品『サスペリア』のダリオ・アルジェント監督を主演に迎えた映画というからさぞや恐ろしいお話かと思ったら全く予想に反した重い物語でした。
認知症の老いた妻と心臓病を病み死に直面する夫を左右二つに割った画面で別々に映し続けるという斬新な構造です。左右二分割の映像表現は、ノエ監督の前作『ルクス・エテルナ』の一部でも用いられていたのですが、別画面の字幕を読むのに目があっち行ったりこっち来たりでとても疲れてしまいました。にもかかわらず、本作ではそれを徹底して殆ど全画面が二分割なのです。ところが、本作は台詞が少ない事もあって、二つの画面で進むお話が「長年連れ添っても結局は別々の人生」を表現するのに非常に効果的でした。
作中では、「たとえ死んでもその人への共感は胸に残る」と言った言葉があるにもかかわらず、この作品自体は「人間は死んでしまったらそれで全ておしまい」という冷厳な事実を突き放すように示します。そのこと自体が、観終えてからゾワッと来るホラー映画の様でした。血しぶきはどこにも出て来ませんでした。 (2023/12月 鑑賞)
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