「ギャスパー・ノエ映画ならではの未曾有体験」VORTEX ヴォルテックス 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ギャスパー・ノエ映画ならではの未曾有体験
ギャスパー・ノエと聞くと身構えてしまうのは、かつて「カノン」で唐突に警戒信号が発令されたり(そういう映像演出だった)「VOID」では死後の魂が夜の街をさまよったりと、彼の映画ではやたらと未曾有の事態が突きつけられるからだろうか。だが今回の新作はシンプルでいて深淵。過激さを払拭した作りに驚かされ、そこから伝わってくるものがこれまで以上に切実に、悲しく、ヒリヒリと身と心を浸していく様に言葉を失った。老夫婦は冒頭で、それぞれの場所から窓を開け放ち、笑顔で挨拶を交わす。そこからスプリットスクリーンにて紡がれていく二者各々の日常と動線。その姿をじっと見つめ続けるからこそ、我々には、本人の意識と行動が恐ろしく乖離し、夫婦の感情が噛み合わなくなっていく流れが手に取るようにわかる。よくある老いを描いた映画とも一味違う。ノエにしか描き得ない、人間の生き様を突きつけ、考えさせられる時間と空間がそこにはあった。
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