劇場公開日 2023年12月8日

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「老夫婦と彼らの家の「在りし日のスライド」」VORTEX ヴォルテックス jinminさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5老夫婦と彼らの家の「在りし日のスライド」

2023年12月18日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

スプリットスクリーンで印象的に描かれる、共に暮らしながらも食い違っていく老夫婦の終末。
カット切り替え時の暗転はギャスパー・ノエの特徴的な演出であるけれども、妻の葬儀時のやはり暗転を挟んで展開される「在りし日のスライド」やそれに続く家の片付けのシーンを見て、この映画全体が老夫婦と彼らの家を送る「在りし日のスライド」であったのかと思い至った。
特に印象に残ったのは家の描写で、大量の草花で飾られたバルコニーから始まるオープニングを皮切りに、溜め込まれた書類や本、貼られまくるポスターや写真や手紙などが執拗に描写され、彼らの時間と暮らしが刻み込まれた第三の主人公として機能していた。
家が夫婦と不可分の存在であるがゆえに、妻が書類や原稿を捨てるシーンが彼女の病の、ひいてはこの映画のクライマックスとなり、夫は妻の病がいくら進もうとも介護施設への引越しを決断できない。

思わずうるさいと叱りたくなるような、大事な話をしているときにミニカーをぶつけてうるさくする男の子もすごく良かった。

jinmin