劇場公開日 2023年3月17日

  • 予告編を見る

「ルコントによるメグレの続編はないそうだ」メグレと若い女の死 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ルコントによるメグレの続編はないそうだ

2023年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

BSPでいつも楽しんでいるポアロを思い出しながらメグレのことを書いてみる。
二人ともフランス語圏のベルギー出身で、上流階級と庶民(労働者階級)との間で事件を追っている。一番違うのは、ポアロがベルギー時代に警察署長を経験していて上流階級の側に立っているのに対し、メグレは若い頃、医学部に在籍したことがあるが、経済的な理由で中退したこともあり、警察では現場育ちで、労働者階級に同情的。ポアロが20〜30年代のロンドンを舞台にしているのに対し、今回のメグレは50年代のパリが背景。
この映画では、ピークが二つある。最初が、資産家のヴァロア夫人の最愛の息子ローランと女優志望のジェニーヌとの婚約パーティに、第一のヒロイン(その後、殺害される)ルイーズが乱入するところ。次が、結婚パーティに第二のヒロイン、ベティが現れるところ。明るいシャンデリアの下、豪華な食器が並べられ、目を見張るような借り着の夜会服を纏ったヒロインが一瞬だけ美しい。映画のストーリーは、この二つのピークの間で、メグレが、地方から出てきた若くて貧しいルイーズがなぜ殺されたのか、丹念に追うことで展開される。中心は、関係者のインタヴューだからミステリーとしては弱い。
見せ場は、石造りの建物が白くなる前の薄汚れたパリ。最後に出てくるモンマルトルを思わせる緩やかな坂道が、特に心に残る。室内には何も装飾がなくテーブルクロスもかかっていない学校の教室のようなカンティーヌ(食堂)も出てくる、でもデザートのお薦めはおしゃれなタルト・タタン。是非、食べてみたい。
安アパートの急な階段を息を切らせて登るドパルデューのメグレは、やや年老いて巨漢過ぎ、いかにもミスキャストだけれど、なかなかどうして、特に奥さんとの会話が魅力的。
50年代、若い二人のヒロインたちは、今ならパリ郊外の高層団地に住む移民の女の子たちか。メグレを介して伝わってくるルコントの冷静だが、穏やかな視線が懐かしい。是非、続編を期待したいところ。

詠み人知らず