パンチ・レディ
![パンチ・レディ](https://eiga.k-img.com/images/movie/98303/photo/5c341c3d6bb4f83c/640.jpg?1667354283)
格闘技に真剣に打ち込んでる人にも、DV問題や女性差別問題に携わっている人にも、韓国人の人権意識そして韓国映画界の質についても失礼な映画。
スターチャネルでやってたのを見たのだけど、これは放映する価値があるの?
異種格闘技(劇中の訳そのまま)の王者の夫からDVを受けている主婦が、十三年前の元カレが夫との試合で死亡したのをきっかけにリベンジマッチをリング上で行い、しかも最後は勝つという内容。
途中交通事故やトレーニングのシーンが入り、そういう緊張感の起伏はちゃんとある。が、設定や考察がいい加減すぎる。
まず、格闘技。「KO-2」という格闘技興行は、ルール(ヒジ無しバックブローありのキックボクシング)やジムのポスターからK-1を模倣したものだとわかる。体格的には中量級のK-1 WORLD MAXの選手だろう。
韓国王者で、21戦20勝という成績(奥さんとの試合の時に戦績が映る。ちなみに奥さんは0戦0勝)はかなりのもの。
総合格闘技や立ち技での興行は日本が一歩進んでいた時代があるが、その時は韓国人選手も少なからず日本で試合をしていた。パンクラスとか。韓国でも選手層は薄くはなかったはず。何が言いたいかというと、「ケンカ21戦20勝」とかそういうことではなく、アスリート同士の試合で20勝している腕があるということ。
それが3か月しか練習していないズブの素人に負けることは、現実世界では絶対にありえない。たとえ片腕が使えなかったとしても。相手が女性ということを差っ引いてもありえない。
格闘技や喧嘩の下地があるならまだしも、そういうものが全くない素人がリングに上がれるレベルになるのは、ものすごい才能が無い限り無理無理無理。
この映画での試合はキックボクシングのグローブマッチで、素人だとグローブの重さですぐに腕が上がらなくなる。3か月で大分ましにはなるだろうが、ここで細身の主婦が3か月でどれくらい筋量を増やせるかという問題が出て来る。
しっかりしたトレーナーを付けても3か月でどこまでできるか。最初の2週間2サイクルでやっと筋肉痛が引き始めて軌道に乗り、残り2か月でハードトレーニングと食事管理をしっかりやって、自重がある男性ならそこそこの体格になる。が、女性だと筋肉が付きにくいのでどうだろう?
筋肉量が無いとガードは出来ても攻撃力が無いから、ハイキックに頼るのは正解。夫が左手を封じているので、右ハイキックは入るだろう。けど、それが必殺技になるのではなく、適当に聞いただけのロシアンフックを必殺技にするのは愚かすぎる。あれはPRIDEでヒョードルがぶんまわしフックを当て勘だけでヒットさせてたもので、しっかりした肩と体重がなければ脅威にはならない。あとあんなテレホンパンチは立ち技では通用しない。グランドありで前傾姿勢が基本のレスリングスタイルだからこそ生きてくるパンチなので、KO-2では意味が無い。
奥さんに何か才能があってそこを伸ばして、乾坤一擲とするのならわかるが、トレーナーも素人だしただタイヤ引きずって運動しているだけだし、基礎体力つけてるだけ。必要ないとは言わないがこんなトレーニングじゃ勝てない。
それが勝ってしまうのが、この映画のいい加減さ。
ビルドゥングスロマンとしてどの点がダメなのか、まだまだ書き足りないくらいだが、もう思い出すのも飽きてきたのでこれくらいで。
奥さんや娘へのDVについても、対応が甘すぎる。
あそこまで傷が残っているのに、娘も灰皿を投げられてケガしていて、証人もいるのになぜか奥さんだけが収監される。すぐに釈放されているが、夫への法的懲罰は全くなし。
そして劇中何度も「あんな女なんて殴られて当然だ」的な発言が繰り返される。
つまりは「韓国ってこんなに女性の地位が低いんですよ」と表現しているわけだ。韓国の人は怒っていい。2000年代の韓国は、多少の男女格差はあっても、まるで女性が人間でないような扱いをする国ではなかったはずだ。
また、DV被害者を支える団体に連絡を取るでもなく、奥さんは友人の家に転がり込む。
何かを解決しよう、娘の為に状況を良くしようと思っても無知無学故に何も出来ない。
この監督は「DVに会うのはこんなにバカで気力が無いからだ」と言っている、と受け取られてもしょうがない。
そこから方向転換するきっかけは13年前に別れた元カレの試合での死だけど、あれ?娘はじゃあ13歳未満なの?中学生以上に見えるけど。そもそもなんで別れたの?このあたりもテキトー。
そして、こんな映画を許してしまうほど韓国映画界はレベル低いのか?玉石混交なのかもしれないが、一見適当な作りをしていてもエンターテイメントとして良くできてる映画の方が多かった。
「アタック・ザ・ガスステーション」とか、「テハンノで売春していてバラバラ殺人にあった女子高生、まだテハンノにいる」とか。
韓国映画だからとにかく見てみようと思って映画館に行って、がっかりしたことはなかった。それくらいの底力があるのが韓国映画界だと思っていたのだけど。
そして、スターチャネルはなぜこれの放映権を買って日本で放送しようと思ったのか。韓国映画ならなんでもいいと思っているのか、それとも韓国映画の評判を落としたいのか。そんなクズな思惑があるのかと邪推したくなる。
主人公のト・ジウォンは、ちゃんとメイクすればイ・ヨンエやリン・チーリンに匹敵するくらいになると思うのだけど(褒めすぎ?)このあとは映画ではぱっとせず、ドラマの方で活躍している模様。
日本だと有森也実の立ち位置?
人の良いオッサンを演じたソン・ヒョンジュは「悪のクロニクル」で印象に残る役者だったけど、あれは2015年の映画。その8年前の今作ではこんな気持ち悪いキャラとして扱われていたのね。
星0.5はト・ジウォンの分。あとは星を上げられない。