「「完璧な親」などいない」M3GAN ミーガン alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
「完璧な親」などいない
製作、原案はジェームズ・ワン。監督は別の人。
ジェームズ・ワンは、『マリグナント』の時も思ったけど、王道ストーリーの中に社会問題(フェミニズム)を入れ込むのが上手いですね。おかげで今のところ、レビューでポリコレだ〜!と騒いでる人を見かけたことがない。優秀ですね。
ミーガンがクソガキブランドンに攫われ、靴を脱がされ、その後馬乗りで顔を覗き込まれるシーンは、あからさまにレイプを連想させる。
片方だけ靴を脱がせるのは、仮に一旦逃れられたとしても走れないようにするためで、レイプ犯の常套手段だとか。恐怖を与え抵抗できなくするために顔を殴るのも常套手段ですね(他に首を絞めたり腹を殴ったりして意識が朦朧としている間に、という手口も)。
流石に俳優が子供同士だから、ケイティ相手ではやらせられなかったシーンなのでは。
「聞いてんの?」と言いながら、「人の話を聞かない人間に耳なんか必要ないだろ」とでもいうようにブランドンの耳を毟り取るミーガン。いいぞやってまえ。
そして無事(?)帰った後、ケイティに「私達がどんなに避けようとしても、この世界には私達に害を与えようとする人間が常にいる」。
色んな場面で、確かに我々は「害を与えようとする」人間に出遭う。そして更に悪いことに、誰にでも「当たり屋」的な事件は起こり得るのに、被害を訴えると「お前が何かしたんじゃないのか!」「お前にも落ち度が!服装が!態度が!」と被害者を追い詰め黙らせようとする輩が必ず出てくる。
何もしてないのに襲われるはずがない、もしそんなことがまかり通るなら、自分も襲われるかもしれない、ビビリながら日々を過ごすのは嫌だから、都合の悪いことは知りたくない、そんな事実は信じたくない。自己防衛のために他人をボコボコに叩いて黙らせ、問題自体をなかったことにする。
お隣のセリア(日本では100均が浮かんじゃうよね)も、自分の犬が人に迷惑をかけていることを承知で放し飼い。きちんと躾をされた犬ならあそこまではしないし、多分これもブランドンと同じ「最低限の躾もされてない」キャラクターの象徴なのかも。
もしかすると、基本的な躾すらされていないような人間は獣と同じ、という意味もあったりして。勘繰りすぎ?
で、案の定自分の犬がいなくなると真っ先に主人公ジェマの家に殴り込んできて「お前がやったんだろ!」とブチギレ。そこまでされる可能性があるとすぐ思い付くほど迷惑かけてるとわかってての放し飼いか、コイツ。
まあ監督責任でいうと確かにジェマもジェマなんだけど。
結局、家の前でギャーギャー喚いてケイティを不安にさせた罪で、お陀仏!
最終的には、きちんと躾もせず自分のことしかやらない、ケイティ放ったらかしで、都合の良い時だけ保護者ヅラして自分の仕事に利用するジェマにもミーガンは牙を剥く。
世の中には色んな人間がいて、欠点は誰にでもある。悪い面が悪い状況と重なって前面に出てきた時、ミーガンは「殺して良し」と判断する。
ミーガンはAIで、綺麗事は通用しない。あれこれ言い訳し、自分はできないくせに他人には押し付ける人間の大人達と違って「私は完璧な親になれる」と思っている。「私こそが子供に本当の愛を教えてあげられる」と思っている。
そもそもミーガンは子供の「友達」として描かれているけど、作中では徐々に世間の求める「完璧な母親」像に近くなっていく。忍耐強く躾をし、片時も目を離さず、怒鳴ったり脅したりせずに言うことを聞かせられ、下らない話も熱心に聞き、子供の質問には何でも答えられる頭脳を持ち、我が子を攻撃する相手には容赦しない。流石に殺すまでは行き過ぎだけど、逆にいえば、行き過ぎなければミーガンは世間の求める「完璧な母親」そのもの。子供にぴったり張り付いて目を離さず子供のためなら何でもするし、子供の求めることは何でもしてあげられる、「完璧な母親」。
これこそがネット上で求められている「完璧な母親」像であり、「完璧な母親」を求めるなら、お前らみたいなゴチャゴチャうるさいだけの赤の他人は敵になるけど?エエんか???とでも言ってるよう。
また、ジェマが世間的によく言われる「父親らしい」保護者なのも、恐らく意図的なもの。
仕事一筋で家庭を顧みず、子供の世話を母親に押し付け、責任は負わずに保護者(家庭のリーダー・責任者)の顔だけはする。自分の得意なことでだけ饒舌になり、子供を理解しようとせず、自分のやり方を押し付け、おもちゃの遊び方にまで口を出す。
挙句の果てに、自分の作ったAIロボに子供の世話をさせ、データも取って自分の研究が進む一石二鳥!というセコさ。
つまり、ジェマが「父親」であり、AIロボミーガンが「母親」。こう見ると、割とありがちな普通の家庭である、というのが本作のキモなのかなと。
こんな家庭は既に崩壊しているにも関わらず、家庭外に問題が流出し、手が付けられなくなるほど酷くなるまでほとんどの人が問題意識を持たない、社会問題であることすら認識していない、ということを示唆しているのかも。
ミーガンの狂気に気付いたジェマが漸く保護者としての自覚を持ち、ミーガンを命懸けで倒す…この流れ、ハリウッドのいつもの「普段は役立たずでうだつの上がらない父親が、子供のピンチの時だけ格好良く助けてヒーロー扱い」のアレ。既存の設定を上手く裏返して使ったなという感じ。
全体的に現実の社会問題と映画界の既存の設定を利用するのが本当にうまくて、『マリグナント』とセットで本作も大変良かったので、ジェームズ・ワンは今後も推していきたい(この2作品しか見てないけど)。
そして、ミーガン役のエイミーが凄すぎる…ダンスからの宙返り、流石にワイヤーアクションだろHahahaと思っていたけど、Blu-rayの特典映像を見たら、人形の分厚いマスクをつけて視界も悪いなか、普通にワイヤーなしで自分1人でやってました…ダンス世界大会の優勝者なんだそうです。
森の中で四つん這いで走る動きも本人がやったそうだけど、ヤバすぎだろ…中国雑技団とかシルク・ドゥ・ソレイユとかにいそう。
今後も俳優業続けるならこちらもチェックしていきたい子役。
