「韓流ドラマ真っ青のご都合主義にため息」マッチング 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
韓流ドラマ真っ青のご都合主義にため息
「ミッドナイトスワン」の内田栄治監督の最新作ということで、かなり期待して観に行ったのですが、残念ながら合点の行く作品ではありませんでした。物語の辻褄が合わないと感じられる部分がある上、登場人物の行動が非常識だったり非合理的だったりする部分がいくつも見受けられました。またストーリー展開も、韓流ドラマも真っ青な偶然に依拠し過ぎのご都合主義が目立ちました。出産後初の主演となった土屋太鳳をはじめ、俳優陣の演技はまずまずだっただけに、非常に残念だったなあと思う結果でした。
ストーリー上一番合点が行かなかったのは、主人公の輪花が子供の頃に、杉本哲太扮する彼女の父親が、不倫相手に包丁で刺されたことを、輪花が全く記憶していなかったこと。父親が肩甲骨の上の辺りを包丁で数センチ突き刺される怪我を負ったことを、当時いくら幼稚園児だったとはいえ、輪花が覚えていなかったのは不自然極まりないところ。しかもこれをきっかけに父親の浮気が母親にバレ、直後に母親は失踪してしまう訳で、以降父娘2人で暮らすことになる輪花が、父親の刺し傷を全く知らないなんてあり得ないことだと感じました。少なくとも、不倫相手に刺されたことを知らずとも、父親の背中に刺し傷があるくらいのことを前半で見せておくべきだったのではないかなと思います。そうしておいて、終盤になってそれが不倫相手に刺されたものであることが明らかになれば、伏線の回収にもなったのになと、素人考えが浮かんだところです。
また、同僚の勧めで輪花がマッチングサイトに登録するところまでは良いとして、煮え切らない輪花に替わって同僚が「いいね」の返信ボタンを押し、さらにはメッセージまで送ってしまうなんて、ちょっとあり得ないなあと感じました。さらには他の会社と提携協議をしている会議の席上で、マッチングアプリを確認し、それに関する私語までしている非常識ぶりは、令和的にも”不適切”な行為だと感じました。勿論輪花や同僚が、そういう”輩”として描かれているならいいのですが、特にそうした話ではないだけに尚更不自然でした。
その上、何人もいる相手から同僚が「いいね」を返信し、メッセージを送ったのが連続殺人鬼の吐夢であり、(明示はされてませんが)父親の不倫相手が産み、赤ん坊の時に捨てられた異母兄弟だったなんて偶然は、韓流ドラマでも中々ないご都合主義で、この辺りも納得しかねるところ。ご都合主義は他にもあって、マッチングサイト運営会社に勤務する影山の母親は、輪花の父親の不倫相手であり、父親だけでなくその娘や関係者を恨んだ上で殺人を行うという展開でしたが、影山が自分の勤める会社のマッチングアプリで輪花を見つけたことも偶然の産物。さらには輪花に近付くために、自らが勤めるマッチングサイト運営会社から輪花の勤める結婚式場に提携を申し入れた辺りも、偶然に依拠した展開でした。百歩譲ってこの提携話を自らが企画することはあり得ても、ミーティングの場に輪花が出て来るかは式場側の判断であり、輪花以外の担当者が出て来ることだって十分考えられます。偶然が一つだけなら、運命の悪戯で済ませることも可能でしょうが、偶然が重なる展開は、ご都合主義以外の何物でもないと思った次第です。
もう一つ付け加えると、マッチングサイトで出会った輪花と吐夢でしたが、風貌から発言まで、何から何まで吐夢は明らかに変でした。一回デートするにしても、不審に思ったら彼からのメッセージを拒否設定するなり、それでもしつこくされるなら警察に相談すればいいのに、彼女はそれをせず、やり取りを続けます。まあ人それぞれ対応は違うのかも知れませんが、非常時における行動がここまで間抜けだと、流石に輪花に感情移入することが出来ませんでした。
以上、個別のことを述べてきましたが、全般的な感想を述べるとすれば、今や多くの人が使っているマッチングアプリをテーマにしたお話だったので、もう少し普遍性のあるストーリーだったら良かったのにと感じました。前述の通り、母親の不倫相手に対する恨みを晴らそうとしていた影山が、偶然マッチングアプリ上でその不倫相手の娘を見つけるという展開は、マッチングアプリ特有の盲点とは言い難いお話でした。せっかく現代的なツールをテーマにしているのだから、もう少しマッチングアプリならではの怖さを表現できるストーリーであれば、各種のご都合主義があっても、もう少し合点の行く作品になったんじゃないかなと思ったところでした。
そんな訳で本作の評価は★2とします。