劇場公開日 2024年2月23日

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マッチング : インタビュー

2024年3月1日更新

土屋太鳳が語る俳優業の“信念” エンタテインメント=虚構「だからこそ表現できる真実がある」

常に「何か少しでも伝わってほしい」と願いながら、演技に取り組むと語る土屋太鳳
常に「何か少しでも伝わってほしい」と願いながら、演技に取り組むと語る土屋太鳳

俳優の土屋太鳳が、マッチングアプリによる出会いから始まる恐怖を描いたサスペンススリラー「マッチング」(公開中)に主演し、度重なる悲劇に巻き込まれる主人公・唯島輪花を演じている。これまで、芯の強さや清楚さを持った女性像を演じてきた土屋だが、本作ではある意味、主体性や自信のない役どころに挑み、狂気と向き合うことで、徐々に強さに目覚める“変化”を表現してみせる。感情をあらわに絶叫するーー。そんな姿も披露し、俳優として新たな境地に立った作品について、話を聞いた。(取材・文/内田涼、撮影/間庭裕基

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恋愛に奥手なウエディングプランナーの輪花(土屋)は、マッチングアプリで出会った男・吐夢(佐久間大介)のストーカー行為に悩まされる。恐怖を感じた輪花は、取引先であるマッチングアプリ運営会社のプログラマー・影山(金子ノブアキ)に助けを求めるが、時を同じくして、“アプリ婚”した夫婦を狙った連続殺人事件が起こる。

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――土屋さんが演じる輪花と一緒に、予測不可能な恐怖にどんどん飲み込まれる。そんな感覚が味わえる作品でした。

土屋太鳳(以下略):台本をいただき、あまりにも辛い出来事の連続で、輪花と一緒にどう生きるべきなのか、ちゃんと輪花として生きることができるのか。自分のなかでも整理がつかず、不安はありました。常に「何か少しでも伝わってほしい」と願いながら、演技に取り組む私にとっては、恐怖を感じることもありました。

――メガホンをとるのは、「ミッドナイトスワン」の内田英治監督。原作・脚本も手がけた内田監督とは、土屋さんが抱いた不安や恐怖について、どんなお話をしましたか?

具体的に何か、というよりは、現場で深い愛情を感じることができたことに感謝しています。内田監督は「ミュージシャンにライブでしか出せない力があるように、役者さんにも本番にしか出せない力があると思う」とおっしゃっていて、実際、そこまでテイクは重ねないんです。1回で撮れるものは、撮ってしまう。そんな監督の姿勢や世界観、それに私たちのお芝居を、内田組の皆さんが全力で支えていて、その姿を見ると、私自身が強くなれる気がしたんです。

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――先ほど、演技を通して「何か少しでも伝わってほしい」と願っているとおっしゃっていましたね。ご自身が不安や恐怖を乗り越えた「マッチング」から、どんな思いを観客に届けたいですか?

マッチングアプリは、時代に合った身近なツールだと思いますし、実際に幸せな出会いもあると思います。でも、身近な分、注意しないといけない部分もあって。「マッチング」は、マッチングアプリが良い悪いの物語ではなくて、「丁寧に人とつながる大切さ」を描いているんです。結局、人と人との関係性って、積み重ねですよね。それに、幸せを探しているつもりが、輪花のように違うものを掴んでしまうこともあって。ですから、ご覧いただいた方には、小さな幸せを見つけてほしいなと思います。空を見上げて、太陽がきれいだなとか。だからこそ、いまの自分がいるんじゃないかなって。それは私自身が、輪花を演じて気づいたことでもあるんです。

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――確かに「マッチング」は、マッチングアプリの是非ではなく、そこに潜む“虚像”の恐ろしさから、さまざまなことを考えさせる作品だと思います。そこでぜひお聞きしたいのですが、土屋さんは俳優として、台本上に書かれた“虚像”に対し、いかに命や心を吹き込んでいるのでしょうか?

おっしゃる通り、エンタテインメントは、虚構の世界だとは思うんです。でも、虚構・虚像だからこそ、私たち俳優に表現できる“真実”があると信じ、演技をしているーー。そんな希望を胸に、役柄に気持ちを吹き込んでいると思います。真実を知るために、ドキュメンタリーを見るのもいいと思いますが、エンタテインメントには、ドキュメンタリーとは違う真実をお伝えできる力があるのではないでしょうか。

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――そうした信念から、今回、輪花というキャラクターにどのように命を吹き込みましたか?

輪花は、本当にごく普通の女の子です。日々の仕事やプライベートで、良いこともあれば、悪いこともある。家族の前ではダラッとしたり(笑)。だから、役づくりはあまりしなかったですね。輪花の身に起こる悲劇は、あまりに突然のことばかりで、その都度、反応するしかない。もちろん台本はありますが、その場に立って、その場で反応することが大切でした。すごくアンテナが必要な役なので、普段から、身の回りにある音や言葉に対して、意識を敏感にして、そこから自分なりに映像を思い浮かべるようにしました。いままでもやってきたことではあるんですが、輪花が“普通”だからこそ、より自覚的に、必要な作業だったんです。

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――ありがとうございます。最近はショートフィルムの監督・脚本を手がけるなど、さらに活躍の場を広げていますね。そんな土屋さんが、近い将来、遠い未来を見据えて「こんな存在でいたい」と目指す目標を教えてください。

必死に生きている人たちに寄り添い、共感できる作品に出演し続けたいと、強く思っています。そういう作品は、現場でスタッフの方々、共演者の皆さんと共鳴し合わないと生まれないと思いますし、「マッチング」はまさにそんな熱意に溢れた作品でした。そして、先ほどお話しした、丁寧なつながりの積み重ねーー、ご縁ですね。めぐり会ったご縁を大切に、演技を続けていきたいです。それに、実力がある、頑張っているのに、なかなか活躍できない人たちのチャンスを広げられるような取り組みもしたいと思っています。

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