劇場公開日 2023年3月17日

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「美しさと抜け出せない孤独と、表現者としての苦しみと」零落 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5美しさと抜け出せない孤独と、表現者としての苦しみと

2023年3月26日
PCから投稿

監督としての竹中直人というと、かつて『東京日和』で魅せた柔和さに微かな哀しみを織り交ぜた感触が忘れられないが、今回の作品は変わらぬ映像美を持ちつつも、全編を通じて張り詰めるような心象風景が胸を侵食していく。主演の斎藤工はこの精神状態をずっとキープするのにさぞ苦労したことだろう。というのも、本作の主題には「表現者の生き様」と直結する部分があるからだ。ひとつの作品を終えた虚脱感をいかに克服するか。大衆が望むものと自分が追究したい芸術性との落差をどう埋めるか。葛藤というより無限地獄に等しい産みの苦しみが横たわり、いちばん近しい人に最も辛く当たるなど、表現者としてと言うより人間として堕ちていく姿が生々しい。斎藤も竹中も、娯楽系とアート系を自在に行き来する表現者であるからこそ、彼らがこんな作品を作り上げることにフィクションとはいえ興味深さを禁じ得ない。それにしてもどよーんとしてしまう作品ではあるが。

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牛津厚信