「ひたすら、落ちて」零落 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
ひたすら、落ちて
通常スクリーンで鑑賞。
原作マンガは未読。
自宅の近所のシネコンでも上映されていましたが、仕事終わりにちょっとだけ遠出して敢えてミニシアターへ…
柔らかな印象の映像の中で剥き出しになっていく感情が圧巻でした。一途な愛やエゴ、束の間の安らぎとそれでも満たされぬ心。演技巧者ばかりのキャスト陣の熱演が目を引きました。
斎藤工の気怠さを感じさせる演技から色気がだだ洩れ。深澤は斎藤工そのものなのではないかとさえ思えるくらい、役をモノにしている感じがとにかく素晴らしかったです。
趣里の存在感も抜群で、深澤との会話はまるで一編の詩の様な奥深さ。設定年齢からしたら大人びた言葉遣いと、普段の年齢相応な振る舞いとのスイッチングが見事でした。
とにかく主人公・深澤薫が落ちていく。ひたすら落ち続けていく。最後に人間が変わるわけでもなく、むしろ悪くなっていく一方で、終始深澤に嫌悪感を抱きっぱなしでした。
しかし、深澤に共感出来るところも確かにあって。マンガ家の性と業が剥き出しになり、虚無の荒野を彷徨う姿は、誰しもが一度や二度は抱く絶望やもどかしさそのものかもな、と…
ミドルエイジの苦悩と彷徨は、まだその年齢に達していない私には完全に理解出来るものではないかもしれないけれど、何かをやり遂げた後の喪失感は身に覚えがあります。
猫の目の元カノが深澤に突き付けた言葉は彼の核心を捉え、彼にトラウマを植え付けると共にマンガを創作する際の行動原理にもなっていると云うのが複雑で興味深かったです。
描けば描くほど他人も自分も傷つける。誰も自分のことを理解してくれない。自分を励ましてくれていたSNSのフォロワーの少女も、「バカでも分かる」ように描いたマンガに感動していたことに落胆し、流れ落ちる涙。袋小路にいる深澤が救われて欲しいと思わずにいられませんでした。
[余談]
趣里の出演している作品を観るのは初めてでしたが、ふとした表情や声音が伊藤蘭そっくりで驚きました。もしかしたら本人はあまり言われたくない事柄かもしれないけれど…
※修正(2024/03/13)