「【”漫画の化け物の煩悶。”漫画に憑りつかれた中年漫画家が人気に陰りが出来、中年クライシスの中で懊悩しながらも、総てを清算し大衆に迎合した新作を産む姿をシニカル且つアーティスティックに描いた作品。】」零落 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”漫画の化け物の煩悶。”漫画に憑りつかれた中年漫画家が人気に陰りが出来、中年クライシスの中で懊悩しながらも、総てを清算し大衆に迎合した新作を産む姿をシニカル且つアーティスティックに描いた作品。】
ー 零落の漫画家と言えば,私のイメージはつげ義春である。実際に冒頭のシーンで、氏の「ねじ式」が若き深澤(斎藤工)の部屋に転がっている。-
■元人気漫画家の深澤は、8年に及んだ連載が終了するも、編集者からは落ち目の漫画家扱いをされ、プライドを傷つけられる。
編集者である妻(MEGUMI)との結婚生活も、すれ違いの生活で溝が広がって行く・・。
◆感想
・零落・剥落・漂泊と言った言葉が当てはまるシーンが今作には多い。
ー 深澤の年齢は語られないが、漫画家としては中堅クラスであり、中年クライシスに陥って行く様を斎藤工が猫背で歩く姿などを通じ、見事に演じている。ー
・深澤は、学生時代に”ある猫の眼の様な瞳を持つ少女”(玉城ティナ)に自らの漫画を初めて褒めて貰うが、或る言葉を囁かれてから、猫のような眼を持つ女性に惹かれる様になる。
■深澤に対する編集者たちの、売れている時にはおだて上げ、売れなくなった途端に掌返しの様な態度を取る様は、原作の浅野いにお氏が経験したことであろうか。
それにしても、今作の深澤の中年クライシスは相当に重い。
彼が「漫画家」という言葉に敏感に反応し、若手人気作家の漫画を貶すシーンの数々。彼が一時期は有名漫画家であった事にプライドを持ちつつ、自身の新作のネタも思いつかない日々に煩悶、懊悩する姿。
・そんな彼は、猫の眼をした風俗嬢ちふゆ(趣里)に惹かれ、彼女の前でのみ心が解放されるのである。
・深澤は妻と離縁し、愛猫の死を見届けつつ、漸く新作を発表し、好評を得る。
ー 彼が編集者達が掌返しで絶賛する中、言い放った言葉。”馬鹿でも感動するように描いたんだよ!”-
・そして、サイン会の時に彼に定期的に励ましのメッセージを贈ってくれていた女性と初めて出会い、彼女から”深澤さんの漫画のお陰で生きて来ました。”と言われた時の彼の”違うんだよ・・”と言いながら机に突っ伏す姿。
ー シニカルシーンである。自らは大衆に迎合した漫画を描いた積りが、一人の熱狂的且つ彼がどん底に居た時にSNSで励ましてくれた女性は”馬鹿でも感動するように描いた漫画に涙しているのである。”ー
<これは、私の推測であるが、深澤は漫画を愛し過ぎたことで、逆に大衆(SNS)に迎合する漫画に対し否定的な思考を持ってしまったのであろう。
そしてラスト、猫の眼の様な瞳を持つ少女に学生時代に言われた言葉。”漫画の化け物”。強烈なインパクトを見る側に与えたシーンであったと私は思う。>