「結果が判っていても面白い…ネタはボクシングだが、内容はプロレス!」クリード 過去の逆襲 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
結果が判っていても面白い…ネタはボクシングだが、内容はプロレス!
主演のマイケル・B・ジョーダンが本作で監督デビュー。
過去2作で放棄してきた人間ドラマを織り込もうとしている。
…が、心配無用。深くはないから。
主人公のアドニスは、引退試合を華々しいKO勝利で飾る。
ここで、引退の理由…身体に故障を抱えていることを説明しておけば、最後の決戦をより盛り上げる布石になったのに…と、思う。
引退後、次世代のチャンピオンであるチャベスを自身のジムに招聘して育成している。チャベスにはドラゴを挑戦者に迎え撃つ防衛戦の日が迫っているのだ。
生意気な現役チャンピオンはトレーナーであるデュークを軽視していて、スパーリングパートナーを壊しまくる。アドニスはそんな彼を諭す。
この新旧チャンピオンの確執のドラマでも良かったのではないかと思うが、全く関係はない。
少年時代の兄貴分デイムがアドニスの前に現れて、物語は動き出す。
アドニスとデイムの“過去の因縁”が物語の縦軸になるだろうことは、映画の導入部に置かれたアドニスの少年時代のエピソードで容易に想像ができる。
そして、動き出した物語は当然のように強引に進んでいく。
このシリーズは、いや『ロッキー3』以降、ストーリーは迫力のファイトシーンを見せるための導線に過ぎない。
『ロッキー』『ロッキー2』には場末で暮らす者たちのドラマがあった。特に夢もなく日々を淡々と生きている彼らも、恋をし、贔屓のスポーツチームを応援し、幾ばくかの儲け話に胸を高鳴らせたりする。
そんな市井の人々の期待を一身に背負って、愛する女のため、自分の誇りのため、命をかける男の姿があった。
だが、もうそんなことは不要だ。
迫力のファイトシーンを盛り上げれば良い「ボクシングアクション映画」というジャンルを産み出したのは、他ならぬロッキーシリーズなのだから。
本作にドラゴ(息子)が登場するのは嬉しいが、扱いは実に軽い。
アドニスのスパーリングパートナーを務める展開にも何ら演出はなく、胸熱な場面にはならない。
アドニスの母は、お涙頂戴シーンのために人生を終える。この事はアドニスが戦うことに何ら影響していないのだから気の毒だ。
本作にロッキーは登場しない。アドニスの引退試合にも、アドニスの母親(アポロの妻)の葬儀にも、顔を出さない。アドニスが復帰を決めても、だ。
フィラデルフィアで老後を過ごしているので、ロスまでは来られないのだと納得しておく。
スタローンは本作も製作に名を連ねているが、これは権利の関係であって中身には関与していないのが実態だろうと思う。(本作のストーリーをあまり気に入っていなかった…という話もあったとか)
無茶苦茶な展開で、デイムがチャベスのタイトルに挑戦できることになる。ドラゴは当て馬の体だ。
アドニスが説得して、チャベスが承諾すると、タイトルマッチが組まれる。関係各団体との交渉過程は割愛されているが、タイトル認定団体も興行上の都合を最大限考慮したのだ…と、理解しておく。
その試合会場で、アドニス夫婦が記念撮影をしていたのはサウル“カネロ”アルバレス(ご本人)に見えた。
アンゼたかし氏の字幕ではWBCしか示されていないが、チャベスが持っていたベルトは3本だった。WBCの緑のベルトの他、黒のベルトはWBA、あずき色のベルトはWBOだろう。IBFの赤いベルトがなかったようだが、映画に協力しなかったのだろうか…。
因みに、ボクシングの世界チャンピオンベルトは「持ち回り」ではなく、チャンピオンその人の所有物になる。アドニスが自宅にチャンピオンベルトを飾っていたのは、自分の物だからだ。
タイトルマッチでは、チャンピオンはベルトを携えてリングに上がる。
挑戦者が勝って新チャンピオンが誕生すると、リング上と直後の会見の場は前チャンピオンから借りたベルトを腰に巻くのだが、そのベルトはちゃんと前チャンピオン(所有者)に返却され、新チャンピオンには後日認定団体から新調されたベルトが届けられる仕組みだ。
だから試合後のデイムが不良仲間たちとたむろしている屋外でチャンピオンベルトを持っていたのは、あり得ないかなと思う。
ついでに言うと、新調されたベルトは進呈されるのではなく、新チャンピオンが購入するのだから面白い。
今は団体ごとにデザインが統一されているが、昔はチャンピオンが自由にデザインしていた。だから、具志堅用高のチャンピオンベルトには試合中継を独占契約していた「TBS」のロゴが刻印されていたのだ。
“腰に巻く”と書いたが、最近のチャンピオンはベルトを腰に巻かない。肩に掛けるか、セコンドが高く掲げてタイトルマッチのリングに上がる。私は、ベルトはちゃんと腰に巻いてほしいと思う。
また、試合前のベルト返還のセレモニーも行われない。「持ち回り」ではないことが周知の事実だからだ。そんな儀式にこだわっているのは、日本のプロレスか総合格闘技くらいなのだ。
…余談が過ぎた⤵️
さて、アドニスとデイムの確執とは一体何だったのだろうか。
デイムが逮捕された時にアドニスが逃げたことで恨んでいたのは解る。
だが、アドニスはデイムに裏切られたと知って怒る。母が隠していたデイムの写真が何かを示していたようだが、ちょっと理解できなかった。
デイムは復讐目的でアドニスに近づいていて、このタイトルマッチがアドニスへの復讐になっているのだとすると、デイムの反則を取らなかったレフェリーが絡んでいるとか、そういうことなのだろうか…。
最後の和解のシーンでアドニスがデイムに詫びているが、どうも釈然としない。
そんなことより、反則を使ってチャベスに勝ったデイムに怒ったアドニスが、真っ向勝負でスポーツボクシングを貫き、デイムに過ちを気づかせる…そんな展開の方がスポ根の王道を行けただろうし、試合後の控室での感傷的な場面ではなくリング上で和解まで持っていく勢いが出せただろうと思うのだが、どうだろう。
決戦シーンではシリーズで今までにない演出があって、新鮮でよかったと思う。
勝敗が決する瞬間にビル・コンティのメロディが流れるという定番演出には、判っていても胸が熱くなる。
チャベスvsデイム戦は「SHOW TIME」の中継で、デイムvsアドニス戦は「DAZN」の中継という設定。名物リングアナウンサーのジミー・レノン・ジュニア氏とデイビット・ディアマンテ氏それぞれご本人が出演しているのは、シリーズのセオリーだ。
リアリティの有無に関係なく、このシリーズには米ボクシング界が協力しているし、期待もしているのだ。