「バカでOUTだけど、クズじゃねぇ!俺たちにも譲れねぇーもんや“SAFE”がある」OUT 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
バカでOUTだけど、クズじゃねぇ!俺たちにも譲れねぇーもんや“SAFE”がある
品川ヒロシが自伝的小説を自身の初メガホンで映画化した『ドロップ』。
品川をモデルにした主人公を成宮寛貴が演じ、水嶋ヒロが演じた友人となる不良。
創作の人物ではなく、品川の中学時代からの友人がモデル。
漫画原作や小説やブログなどで活躍する井口達也。
自身の不良時代を基にした大ヒット漫画。
いつか俺の漫画を映画にして。その約束通り、品川ヒロシが映画化。
二人共、不良時代はこうして陽の目を見るなんて思ってもいなかっただろう。
だって周囲からは、バカ、クズ、OUTのレッテル…。
東京・狛江市で“狛江の狂犬”と名を馳せた達也。
逮捕され、少年院へ。出院後、地元から離され、西千葉へ。叔父叔母夫婦が経営する焼肉屋で住み込みで働き、更正を目指す。
また喧嘩して面倒を起こしたら少年院へ即逆戻り。
言うなれば、“絶対に喧嘩してはいけない更正期間”なのだが…
素行が悪く、すぐカッとなる達也。
監視役の刑事は嫌味だわ、喧嘩してーわ、バイク乗りてーわ、少年院を出たのはいいけど出たら出たでむしゃくしゃする事ばかり。
そんな時に限って、運悪く鉢合わせてしまうのだ。
地元の不良・要。
喧嘩になりそうな所を、相撲で勝負。勝利を収める。
相撲とは言え負けた事をばらされたくない要。勝負前の約束事や達也が働く焼肉屋にも出入りするようになって、意気投合。
要は西千葉では有名な暴走族“斬人”の副総長。
これがきっかけでまた不良の世界に足を踏み入れる達也。
それは新しい出会いでもあり、危機でもあった…。
昨年公開作に限って言えば、『東京リベンジャーズ』『Gメン』に続くヤンキー/不良エンタメ。
若者たちが己のケジメや熱い青春を迸らせるが、各々特色あり。
『東京リベンジャーズ』はタイムトラベルのSF要素。『Gメン』は突き抜けた笑いとスカッとした青春。(にしても『Gメン』、キネ旬読者選出で1位とは…。まあ面白かったけど)
本作は、最も王道的な不良アクション。
品川にとっても本格的なこのジャンルは『ドロップ』以来。
『ドロップ』の姉妹編/後日譚の位置付けらしいが、見てなくても忘れていても大丈夫。
話も出会い、仲間、友情、青春、他との抗争、アクションで分かり易い。
実際の達也は“狛江の狂犬”と呼ばれた伝説の不良。演じた倉悠貴は原作キャラと全く似てなくて当初は線が細すぎでは?…と思ったが、次第にフレッシュな熱演で魅せてくれる。
要役の水上恒司は漢気たっぷり。元“岡田健史”名義で『望み』や『死刑にいたる病』の彼なのね。本名に変えた事は何かでちらっと聞いたけど、変わったのは名前だけではなく風貌や演技も。今も特攻パイロットを演じた戦争ラブストーリーがロングヒットしてるようで、邦画期待の若手実力派として存在感を示してきている。
“斬人”の総長・丹沢。総長で次元が違う強さと言われ、どんな奴かと思ったら、金髪・長髪・小柄の女の子みたいな容姿。普段の喋り方もふにゃふにゃ。が、喧嘩は最強。フレンドリーで人懐こい普段から、喧嘩の時はキリッとなり、ケジメを付ける。マイキータイプの総長。醍醐虎汰朗が硬軟演じ分け。
正直水上や醍醐以外、主演の倉も含め若手のほとんどご存知なく…。誰が誰やら時々ごっちゃになるが、皆熱い。
アクションは勿論身体を張って。終盤の丹沢vs一雅はアクロバティックに見せる。
敵対する“爆羅漢”の非道っぷり。他のグループを襲撃し配下に置き、ヤクで稼ぎ、ヤク漬けにした女の卑猥動画を撮る…などやりたい放題。
仕切るは“ゲバラ三兄弟”。
特に長男・一雅は冷酷で御曹司でもあり、金も権力も持っている。部下や他者の命を何とも思わず、ケジメの抗争に銃を持ち出す。
もはや半グレ集団。
コイツらと俺たちは違う! 全く違ぇーんだよ!
斬人と他の族との間でかつてあった抗争で、一人が死んだ。
今その場所=ボウリング場が皆の溜まり場になっており、そこでの喧嘩は絶対ご法度。死んだ不良の妹・千紘が睨みを利かせている。
斬人や他の族もその協定を守り続けている。
不良は不良でも破ってはならない線引きがある。守りたいものがある。
それが俺たち。爆羅漢とは違う。
達也も同じ。こんな俺でも守りたいものはある。
新しく出会った仲間。ケジメ。
そして何より、叔父叔母。昔気質だが昔不良だった事もあり、不器用ながら達也を見守る叔父。“お姉さん”と言えば肉をサービスしてくれ、要たちにも分け隔てなく接してくれるが、言うべき事はびしっと言う叔母。杉本哲太と渡辺満里奈が支えてくれる。“MTKG”が美味しそう…。早速夜ご飯にしちゃったくらい。
自分たちがどうしようもないバカなのは言われなくても分かっている。
監視役の刑事は社会のゴミクズ呼ばわり(シソンヌ・じろうが嫌味満点)。
一雅は同類と呼ぶ。
確かに俺たちは“OUT”かもしれない。
が、叔父の金言。
“バカでもクズじゃない”。
それを胸に、そこだけは譲れねぇ!
『東京リベンジャーズ』『Gメン』ほどではなかったが、思ってた以上に上々。
序盤のベタな笑いや展開、相変わらず相方や芸人の出演もあるが、徐々に面白味や熱気を帯びてきて、品川監督作としても『ドロップ』以上。いや、品川監督作で一番良かったかも…?
原作コミックは現25巻。最後に台詞で出てきた“6代目総長”って…? ちと調べちゃったけど、シリーズ化も期待出来そう。
不良ヤンキーものは苦手ジャンルだったけど、近年の良作でそうでもなく。
“OUT”から“SAFE”になってきた。