「職人芸的な娯楽作品ですばらしい。」ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
職人芸的な娯楽作品ですばらしい。
人気ゲームの映画化というのはうまくいかない印象があるが、本作は大ヒットした。製作費140億円。興行収入1,900億円。これは2023年の世界ランキング2位。1位は「バービー」の2,000億円。3位は「オッペンハイマー」の1,300億円。
公開当時、任天堂の宮本茂代表取締役フェローが「一番求めていたのは『心に残った』などではなく、純粋に『すごく楽しかった』と言ってもらえること。」と語っていたのが印象的だったが、まさにその言葉通りの仕上がりだった。中だるみがなく、テンポよくどんどん話が進んでいく。
ゲームはやらないので、最近のマリオブラザーズがどういうゲームになっているのか知らない。ただ、子どものころに友だちの家で遊んだマリオブラザーズやドンキーコングのイメージそのままの世界が展開されていた。
おもしろいのは、80年代、90年代あたりのヒット曲が多数BGMに使われていたこと。ゲームの第一弾が1985年に発売されたから、当時の音楽を使ったのかもしれない。昔からマリオをプレイしてきた人にとってはそういう意味でも楽しいだろう。
昔の音楽を使っているからといって古臭くはなく、最新のCGとマッチして、おしゃれに感じられるのだから不思議なものだ。
ストーリーは、配管工のマリオ兄弟が土管に吸い込まれて異世界に飛ばされる、というのは映画のオリジナルの設定だろうか。
マリオはキノコ王国に飛ばされるが、ルイージはクッパが支配するダークランドに飛ばされてしまう。
マリオはルイージを助けるために、ピーチ姫に相談する。ピーチ姫はアクティブな女性で、自ら行動して戦う。このあたりは時代性を感じた。つけくわえると、声を担当しているのは話題のアニャ・テイラー・ジョイだ。
なお、キノコ王国はクッパが攻めてきているのを知っており、抵抗するためには戦わなければいけないという事情がある。兵力に不安があるので、ジャングル王国のコングに協力を求めることにする。
一方クッパは侵略のためにキノコ王国を目指しているのではなく、ピーチ姫に求婚するのが目的だった。
それぞれが戦う理由が明確であり、敵役のクッパもきちんと悪役らしい悪役をやりながら、しかし憎めない、というバランスのよい演出がなされている。
そして、自己実現と承認欲求の充足が前面に出ているのも興味深い。ユーチューバーやイットガールといった言葉が飛び交う時代だから、努力は認められる必要があるのだろう。現実で認められることが重要、という但し書きをしてあるような一面もある。
観客に考えさせない。
ただ観ているだけで楽しい。
そういう意味でも、本作はスーパーマリオというゲームをそのまま映画にしたともいえる。スーパーキャラクターの知名度に頼ることなく、妥協のないクオリティに仕上げてきたところに任天堂という会社のすごさを感じた。