「日本軍復活と燃料アディショナルタイム導入」非常宣言 みりぽんさんの映画レビュー(感想・評価)
日本軍復活と燃料アディショナルタイム導入
航空テロパニック映画と聞いてメーデー民としては見ておかねばと劇場公開終了間際に滑り込んだ。まさに搭乗手続きギリギリに乗り合わせた乗客役のごとく自らフラグを立てに行く。前知識として評価がよいこととあらすじだけは機内に持ち込めた。余談だがはからずもギムリー・グライダーがリスペクトされたことは嬉しいばかりである。
ざっと挙げられた感想を読み終えて言いたいことは出尽くしているが、やはり前半と後半で大きく印象やクオリティが異なる点だろう。前半はパニック映画の要素がメインで映像の作り込みや恐怖を煽る構造はなかなかのもの。じわじわと迫る凶行の瞬間への緊迫感に思わず手に汗を握る。しかし後半は一転して制御を失いウリナラファンタジー映画へと急旋回していく。テコンダー朴のようなネタを楽しみたい人にはおすすめである。単純なパニック映画を期待していた人には意外な展開で楽しめるかもしれないが、悪く言えば突然別のテーマにすり替わったことで違和感を覚えるのではないか。
個人的には韓国人から見て日本人が雑な扱いなのは織り込み済みで、阪神ファンの歌う「商魂込めて」のような予定調和だろう。むしろ、待ってましたとばかり心の中で割れんばかりの拍手が巻き起こる。しかも予想をいい意味で裏切ったのはその直後、韓国でもデモ隊によって暴動が起きるシーンである、韓国人の敵は韓国人である、という展開にただの反日映画ではないところに困惑する。むしろ「日本の皆さんも政府がこんな対応できたらいいでしょう?普通の国ならこれくらいやって当然ですよ」という斬新な切り口の皮肉ではないか。やはり韓国映画は侮れない、ある意味見てよかったという作品だ。
今後ネットで配信されニコニコ動画で視聴できたら、さぞかし面白いだろうなと思う。きっと「あの」シーンでは「大日本帝国万歳!」などのコメントで溢れ返るだろう。しかしほとんどの視聴者はリアリティに欠ける展開に途中で視聴を止めてしまうと思う。映画館は一応途中退場できるがお金を払っているので最後まで見るのが一般的ではあるが、ネット配信ではそうはいかない。おそらく劇場公開後はかなり評価が下がるのではないか。
さてこのような急降下の原因となったものは何だろう。安直な推察だがおそらく低予算なのが原因ではないか。豪華な俳優陣に大掛かりな撮影セット、これだけでも予算枠ギリギリである。つまりそれ以外ではボロが出る。コロナで制作スケジュールが大きく狂ったこともあるだろうが、それ以前に作品として大きな欠陥があることに気がついてしまう。それは時間の概念が欠落していることだ。
例えば晴天の日に太陽光が燦々と降り注ぐ中での雨の撮影シーンなどはよほど日程に余裕がなかったことが伺える。せめて曇りの日に撮影すべきだが、予算がなく日程に余裕がないならそもそもなぜ雨のシーンに拘るのか。マスコミに囲まれるシーンだけ何故か大雨なのである。他のシーンは晴れていたりするが、ハワイ往復の間にそれほど天候がコロコロ変わるのもおかしい。
その感覚のズレは燃料が切れるまでの時間や空港にデモ隊が押し寄せるまでの手際の良さ、製薬会社に詰め寄るシーン、そして致命的なのは核となるウイルスの扱いにも及ぶ。まるで1ヶ月近いドキュメンタリーのような壮大なスケールがハワイ往復の間に凝縮されている。ウイルスの即効性が高いのか低いのか、毒性が強いならそもそも全滅するし全滅しないならせめて着陸だけはできるのだが。ワクチンもそんな短時間で実証できるのか怪しい。
まるで個々のクリエイターが自分の作りたい映像をコラージュのようにツギハギした結果、このような作品が生まれたように感じる。とりあえず辻褄は合わなくてもいいからいい絵が撮りたい。この手の映画で観客が望むものはアクションシーンだから、細かい部分は適当でいいと割り切ったのだろう。
同様に共犯者が逃げたシーンもただ逃走劇と事故の瞬間を撮りたかっただけで、「なぜ逃げたのか」は観客のセリフだろう。逃した犯人が「大丈夫ですか」は無い。犯人の部屋が割れているならウイルスの入手経路も会社とすぐに分かるので共謀する人物はシナリオ上は必要ない。このシーン自体は、とても迫力があり見どころなのだが。
一方、予算の関係上海外ロケは難しい。よってアメリカや日本に緊急着陸するシナリオは不可能である。そこで二次災害が広がれば更にパニックになりそうだが、舞台は韓国内に留めておきたいのだ。しかし危機感を煽るために燃料は枯渇させたい。そこで都合のいい悪役となるのが日本だが、それだと日本での印象が悪くなり興行収入に響く。よって韓国内でも反発を起こそうというアイデアが浮かぶ。
さてここで後半の重要人物に焦点を当ててみる。国土交通省のトップだ。刑事がなかなか悪の本丸に踏み込めない中、国家権力を行使して無事解決へと導く。とても心強い味方なのだが、政治家や官僚ならまずアメリカや日本に救助を要請することが必要なはずだ。それを物語の展開上メンツを潰すこととなってしまった。そこで名誉挽回とばかりに生まれたのがこの人物ではないか。
また、撮影には国を挙げての協力体制があり建前上政府を悪く扱うことはできないだろう。韓国政府も政治家や官僚が自分の進退を顧みず勇敢に立ち向かうという勇敢な姿勢はイメージアップにも繋がる。セウォル号や梨泰院で国民から毎回のように批判の的になっているため、そう考えていてもおかしくないはずだ。両者の思惑が一致すれば、少し予算を融通してもらえるという可能性はないだろうか。なるほど、これは限られた予算内で作品を作ろうという巧妙な財テクかもしれない。
ここまで思い返すと不可思議な点は多く残念ではあるが一概に駄作と切り捨てるには勿体ない。1つ1つのシーンは目を見張るものが多く感情が大きく揺れ動かされる。また映画作りに様々な知恵が絞られているのではという推察もできた。最後に悔しいことが1つ。それは韓国映画のほうが日本のその手の左派連中が作る学芸会レベルのゴミ映画よりは遥かにクオリティが高いことである。それは認めざるを得ない。今後、政権を批判する作品を制作する場合はぜひとも見習って欲しい。