「ホームラン30本だけど打率.250、100三振するバッターみたいな映画」非常宣言 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
ホームラン30本だけど打率.250、100三振するバッターみたいな映画
韓国映画らしいパワーあふれる映画でしたが、ところどころ首を傾げたくなるような場面もありました。プロ野球のバッターに譬えるなら、年間30本以上のホームランを打つけれども、打率は.250程度、三振も100以上という感じでしょうか。まあチャンスに打ってくれる6番バッターなら、相手にとって非常に怖い存在だとは思います。
話を映画に戻しますが、本作は、致死率40%というウィルスを旅客機に持ち込んで、乗員乗客を巻き添えに自殺してやろうというとんでもない犯人が起こしたテロというかハイジャックから、如何に乗員乗客が生還するか、というストーリーを描いたアクション映画でした。
いい点を列挙すると、以下の通りでしょうか。
①とにかくテンポが良く、2時間20分ほどの長丁場ながら、全く飽きるということはありませんでした。
②ここぞという場面での描写が強烈で、序盤に出てきた犯人宅の死体発見現場などは、ホラー映画かと思いました。
③②同様ですが、中盤の刑事2人と共犯と思しき男のカーチェイスシーンは秀逸でした。
④話の盛り上げ方が上手。ウィルスが蔓延したソウル発ホノルル行きの韓国の旅客機KI501便が、アメリカ政府に着陸を拒否され、仕方なくUターンして成田に着陸をしようとすると日本政府にも着陸を拒否される。しかも航空自衛隊の戦闘機から威嚇射撃まで受け、それでも強行に着陸を試みようとするも、カミカゼばりに自衛隊の戦闘機が突っ込んできて、仕方なくKI501便は着陸を諦めてソウルに向かう。
今韓国では、伊藤博文を暗殺した安重根を主人公にした「英雄」という映画がヒットしているらしいですが、韓国の旅客機が自衛隊機に襲われるなんて、韓国人にとっても日本人にとっても、それぞれ別の意味だけど胸熱なシーンだったと思います。ただ「英雄」が韓国国内でしか上映されていない国内向け作品であるのに対して、本作は日本にも輸出している作品だけに、これだけでは終わらないのが凄いところ。なんとソウルに戻ってみると、韓国国内ですら、得体の知れない致死率40%のウィルスが蔓延した旅客機の着陸を拒否する反対運動が勃発。アメリカ政府や宿敵日本のみならず、同胞からも見捨てられる運命に、乗客たちは絶望する。この展開には、鬼のような自衛隊機の動きを見せられた日本男児である私も、やられたと思わざるを得ませんでした。
⑤概ね女尊男卑が貫かれているところ。主役の2人は男性なので、必ずしも男性全員が悪く描かれている訳ではありませんが、マスク警察ならぬウィルス警察ばりに、感染した乗客に罵声を浴びせる役回りの乗客はオッサンだった一方、本件の解決を担当した国土交通大臣は女性でしあ。この辺りはいい点というか、無難だったなと感じたところ。仮にウィルス警察がヒステリーの女性だったとすると、ちょっとしっくりこなかったように思います。
以上が良かった点、面白かった点。
一方で首を傾げたくなったのは以下の通り。
①何事もやり過ぎが目に付く。例えばパイロットが気を失ったせいで操縦不能になり、飛行機がダッチロールするシーン。シートベルトをしていないキャビンアテンダントが天井や床に叩きつけられるのに、次のシーンでは普通に業務に戻っている。あんなに体がぶつかったら、死なないまでもすぐには動けないでしょ。
②いい点でも紹介したところですが、成田に着陸を試みたKI501便に対して、自衛隊機が威嚇射撃するところは、流石にやり過ぎ(その後の展開で、映画としては成り立ってはいるけど)。成田付近の上空で威嚇射撃をし、万一旅客機が墜落して乗員乗客が死亡、加えて下に住んでる住民が亡くなったりしたら、国際問題にもなるし国内でも大問題になり、政権が吹っ飛ぶでしょう。僅か数時間に、そんな即断即決をする首相が、日本にいる訳ないでしょう。「検討使」と言われる岸田首相なら、検討している間にKI501便は着陸してそうです。いずれにしても、いくら恐怖のウィルスが飛行機に乗ってやって来ると言っても、旅客機に向かって威嚇射撃はしないでしょうよ。
③製薬会社が隠し持っていた特効薬の効果を実証するため、ソン・ガンホ演ずるク・イノ刑事が自らウィルスに感染して特効薬の効果を証明しようとします。結果はもちろん効果があって、最終的にKI501便はソウルに着陸する訳ですが、たった一例の治験で薬の効果効能を判断するなんて、いくらなんでもあり得ない話でしょう。というか、無事着陸して事件が一件落着した後でも、ク・イノ刑事は車椅子生活を強いられているようで、実際薬の効果なかったんじゃないかという気もしてます。その辺ク・イノ刑事を「英雄」にしようとする意図が強過ぎたのか、ちょっと辻褄が合ってないように感じました。
④本筋とは関係ないですが、物語の最後、エンドロールに入る直前から、ドビュッシーの「月の光」が流したのは、ちょっといただけなったかなと思いました。「月の光」自体は名曲中の名曲であり、私自身も好きな曲です。上記の通り、激動のストーリーを着陸させるには、ピッタリの選曲だったと言えなくもないのですが、ここまで韓国映画らしさを見せて来たのだから、最後もオリジナルの曲で行って欲しかったなと感じたところでした。
以上、いい点もあり、首を傾げたところもあった映画でしたが、それなりに楽しかったことは事実です。