劇場公開日 2023年1月6日

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「70年代パニック映画のお約束にリアルな社会風刺を滲ませて究極の選択に迫られた人々の葛藤と決断をビビッドに描写した壮大な人間ドラマ」非常宣言 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.070年代パニック映画のお約束にリアルな社会風刺を滲ませて究極の選択に迫られた人々の葛藤と決断をビビッドに描写した壮大な人間ドラマ

2023年1月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

仁川空港。ハワイ行きのKI501便に娘と共に搭乗したジェヒョクはチェックイン後自分達にしつこくつきまとってきた不審な男が乗ってきたのを見かけて不安に駆られていた。同じ頃妻とのハワイ旅行をキャンセルした刑事ク・イノはネット上に投稿された飛行機でのバイオテロ予告の動画について捜査を開始していた。聞き込みで訪れた集合住宅で異臭に気づいたク・イノは施錠されていない住居に立ち入ると・・・。

冒頭からマスク拒否騒動等のコロナ禍でのトラブルに発想を得たかのような描写でサスペンスを目一杯煽ります。予告は航空パニックスリラーという側面ばかりを強調していますが、実際はもっと深いテーマと社会風刺に貫かれた人間ドラマ。閉鎖空間でのウィルス感染によって露わになる人間の本性が激しくぶつかり合う様を丹念に描いている点は1970年代に隆盛を極めたパニック映画群の展開に忠実です。悪く言えばご都合主義がそこかしこに散りばめられているわけですが、次から次へと究極の選択に迫られる登場人物達の葛藤がリアルなので全く気になりません。

当然ドラマを力強く牽引するのがジェヒョクを演じるイ・ビョンホンとク・イノを演じるソン・ガンホ。二人の熱演は『エアポート’75』のチャールトン・ヘストンとジョージ・ケネディ、『タワーリング・インフェルノ』のポール・ニューマンとスティーブ・マックィーン、『ポセイドン・アドベンチャー』のジーン・ハックマンとアーネスト・ボーグナインらと肩を並べるもの。そんな屋台骨があるのでテロの実行犯を演じるイム・シワンや副操縦士ヒョンスを演じるキム・ナムギルといった助演陣の存在も鮮やかに映えます。

本作で想定外の活躍を見せるのが国土交通大臣のスッキ(チョン・ドヨン)。突然のバイオテロに狼狽しながら何とか機体を着陸させようと奔走する中で自身の使命に目覚めていく勇壮がドラマをキリッと引き締めます。

もちろんそんなドラマが映えるのはテクニカルな撮影テクニックによるもの。旅客機内を再現したセットをぐるぐる回転させながら撮影したカットは目玉と言えますが、個人的に目を疑ったのはク・イノが運転する車が市街でクラッシュする様を車内から捉えたカット。路上で激しく転倒しながら車体が歪んでいく様は一体どうやって撮影したのか見当もつきません。恐らくはフィルム撮影も多用されていて現代劇なのにノスタルジー溢れる光彩がドラマを飾っている点も注目すべき点。その堂々たる風格に、東映の70周年記念の大作なのにクソダサいセリフとアホみたいにチャチい城の全景CGが盛大に興醒めを誘う『レジェンド&バタフライ』が裸足で、いや秀吉が温めた草履で逃げ出すレベルだと思います。

よね