「復讐そして推理作家の誕生」ほの蒼き瞳 ASHさんの映画レビュー(感想・評価)
復讐そして推理作家の誕生
映画であれ、小説であれ、ミステリーが好きである。映画を見るというのは良きミステリーに触れることとほぼ同義語だ。
ニューイングランド的な闇の映画というのは、実は、そんなに得意じゃないのになあと思いながら見始めた。実際、舞台はニューイングランドでもなく、ニューヨーク州のウェストポイントだ。どちらかといえば、ワシントン・アービングのSleepy Hollow的な土地柄だ。
うすくらい背景の中で、わかりにくい謎が語りはじめられるのかと思ったら、案外、ミステリーの構造が初めからすっきりとしていて助かった。一人暮らしの物事に絶望したような元刑事にウェストポイントの士官学校で起こった猟奇的殺人の解決の依頼が入ることになる。
捜査の過程で二度目、三度目の犯罪が起こりという物語展開は素直である。
元刑事役のクリスチアン・ベールも、士官学校の生徒でいじめられキャラのエドガー・アラン・ポー役のハリー・メリングも適役。特にメリングは、ベールの助手役になり捜査を手助けするのだが、まさに若き日のポーという感じで、ヤングシャーロック的な風味もあっていい。 ヤングシャーロックは案外好きな映画だったのだが、シリーズ化するという風情を残しながら結局一作で終った不憫な映画である。
つまりは、見る価値のある映画だったといいたいわけである。大体マンハッタンが舞台のスリラーならば何でもOKというタイプの鑑賞者なのだが、この映画も骨格としてはそのシンプルさが軸には通っていて、ニューイングランド風(しつこいようだが舞台はニューヨーク州)の味付けは濃すぎない。
ただし若き日のポーが元刑事の弟子として輝きを増していくあたりからは、少々この映画の「特筆すべき」点になっていく。 洞察力を増していくポーの蒼き瞳があぶり出していくのが最後の謎であり、最大の悲劇である。
大傑作だ!と叫ぶわけではないが、週末に時間を使うのに十分に値する佳作だ。