劇場公開日 2022年12月2日

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「驚異の映像体験」マッドゴッド ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0驚異の映像体験

2023年1月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 めくるめく悪夢的世界に圧倒されてしまった。

 物語はあってないようなもので、ある目的を持った一人のアサシンが地下世界に潜り込んでグロテスクな光景を目撃していく…という体で進行する。何の脈絡もなくシュールで意味不明な光景が次々と出てくるので、苦手に思う人は多いだろう。

 また、セリフが全くないため、この世界観を把握できないまま観ていくことになり、途中で「ワケ分からん」と放り出してしまう人がいても不思議ではない。自分も早々にストーリーを追いかけることを諦め、この独特な世界観に身を委ねながら、邪悪な映像の数々を「体感する」ことにした。

 実際、ここまでぶっ飛んだ世界観というのも中々見たことがない。テイストは全く異なるが「ファンタスティック・プラネット」以来の衝撃的体験である。

 地下に生息するグロテスクな生き物たちの醜悪さや、至る所に死臭と汚物感が漂う光景は、正直見ててキツいものがある。ただ、これがフィル・ティペットの脳内で生成された世界だと言われれば、その圧倒的物量と情報量には素直に首を垂れるしかない。ここまで画面に浩々と己の世界観を再現したこと自体、他の誰にも真似できないのではないだろうか。

 本作の製作は元々は30年前に始まったそうである。ところがCG全盛の時代になり、ティペットの創作意欲も意気消沈。それから20年後に、彼のスタジオのクリエイターたちを中心に再び製作が再開されたということだ。実に苦節30年。正に執念の作品と言うことが出来よう。

 アニメーションとしてのクオリティも申し分ない。一部でCGや実写映像を使っている個所もあるが、約90分間。ストップモーションアニメらしい面白さが詰まっている。

 最も印象に残ったのは、アサシンの解剖シーンだった。腹の中から取り出されたあのクリーチャーは一体何だったのか?デヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」を思い出してしまった。しかも、あのような顛末が待ちうけていようとは…。時計の針が再び動き出すという展開に「2001年宇宙の旅」のオマージュも感じられた。

 尚、アサシンを地下世界に送り出したマッドサイエンティスト役を映画監督のアレックス・コックスが演じている。これまでフィル・ティペットとの繋がりは、少なくとも作品上では無かったので、意外であった。

ありの