「ストップモーション・マスターの内なる狂気をめぐる“2021年地獄の旅”」マッドゴッド 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ストップモーション・マスターの内なる狂気をめぐる“2021年地獄の旅”
パペットを扱うストップモーションアニメの伝説的なクリエイターの姓がティペット(Tippett)だなんて何やら運命的なものを感じるが、中世英国から割とある苗字らしく、ショールのように首や肩にかける細長い布(tippet)に由来するとか。
さて本作の監督、フィル・ティペットは「スター・ウォーズ」や「ロボコップ」などのSF大作で特殊効果を手がけた名匠だが、自ら双極性障害(そう鬱質)を認めており、「ジュラシック・パーク」に参加した際にはCGの恐竜を目にし絶望して寝込んだり、神経衰弱になって精神科の施設に入院したりといった逸話も伝えられている。
そんなティペットの闇深い精神世界の奥底へと降りていき、ダークな空想と狂気から創造された異形のクリーチャーたちが無数にうごめく幾層もの地獄をめぐる体験、とでも形容できるだろうか。恐ろしくも強烈な魅力を放つ造形物と、パペットを一コマずつ動かして撮影するストップモーションアニメ独特の作り込まれた小宇宙を好むジャンルのファンなら、ただ映像世界に身を委ねるだけで忘我の境地だろう。睡眠が十分に足りた状態で鑑賞することをおすすめしておきたい。
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