「雨音の響きが耳に残る。リアルな温度感を持つ映画。」パラダイス 半島 さなさんの映画レビュー(感想・評価)
雨音の響きが耳に残る。リアルな温度感を持つ映画。
雨音の響きが耳に残る。いままさにどこかで起きていることのような温度感を持つ映画。
主人公真英も、姪の夕起も、竜も、みんなどこか足元がおぼつかないような不安定さと頼りなさを持っていて、お互いに寄りかかり合っている。いま私が生活しているのと同じ世界線の、さほど遠くないどこかで起きている出来事として捉えられるほど現実味を帯びた映画だった。
物語は、休養中の芸能人の真英と遊びに来ていた姪の夕起のもとに、事件を起こし逮捕勾留中のところ逃走してきた真英の友人・竜がやってくる、というもの。
印象的だったシーンがいくつもある。冒頭のトラックで真英が畑につくシーンでは、トラックの窓からタバコの煙がふわりと浮かぶのが見える。トラックを降りた真英が、まとわりつく虫を祓い、いつもそうしているように畑に入っていく姿が印象的だった。その後には空や畑など登場人物たちが生きる町の姿が短いカットでいくつか映し出される。それらはなにげない日常のはずなのに、とても魅力的に見えた。
夕起がヘルメットを被ったまま海辺の岩場を歩くシーンも印象的だ。ヘルメットを被った大きな頭を揺らして、不安定な足元の岩場をずんずん進んでいく。どこか滑稽で、可愛らしくて、ずっと見ていたくなるような目が離せなくなるシーンだった。
後半、トラックの中で真英と竜がタバコを吸うシーンも印象に残っている。タバコの火を分け合って、煙を吹かし話をする車内、窓に当たる雨音が強く響いていた。その時の会話以上に、並んだ2人の姿と雨音が強く耳に残っている。
本作品を通して、物語はもちろん、画の美しさに魅了された。何気ない日常、それでいてどこを切り取っても画になる美しい映画だった。
本作は、観ていてドキドキハラハラさせられるわけでもないし、大きな波があるわけでもない。確実にじっくりと流れる時間の中で、登場人物たちがとてもリアルにそこ存在している。演技か演技ではないのかわからないほどニュートラルな姿は、役者をとても魅力的に見せる。登場人物たちがそこに息づく温度を体感できるような魅力的な映画だった。