「戦場の日常、究極の疑似体験。」西部戦線異状なし ジョイ☮ JOY86式。さんの映画レビュー(感想・評価)
戦場の日常、究極の疑似体験。
史上最高の戦争映画と言っても過言ではない。
それくらい凄まじい作品だった。
安易に美化しないリアルなストーリー展開も含め高評価を付けざるを得ない。
プライベートライアン以降、映画における戦争描写はリアリティを増していったが、本作は一つの到達点と言って良いかもしれない。
数多ある戦争映画の中でも「理不尽さ」で言ったらずば抜けていると思うし、これが戦場の日常なのだろうと納得せざるを得なかった。
第一次世界大戦を舞台にした映画というと近年は「1917」などがあり、あちらはノーカット長回しの没入感を売りにしていた。
しかし個人的には本作の方がよほど没入感が高く、映像面でもドラマ面でも優れていたと確信している。1917はいわゆる「主人公補正」が強く、フィクショナルなストーリーだった。故にエンタメとして見るしかない。
しかし本作はそうではない。
祖国の為に戦地に赴いた4人の若者は、"偶然カメラに映った兵士"にすぎない。
どちらかといえばドキュメンタリーに近い。
彼らの"目"を通して我々は想像を絶する凄惨な戦場を目の当たりにする。
だから2時間28分という長尺ながら、一切の隙がなく油断ならない。いやそれどころか、一定の緊張感が最後の最後の最後まで持続する。
息つく間をも与えない。
エンタメ的に都合の良いストーリー展開などここにはない。目の前にあるのは理不尽な戦争だけだ。
この疑似体験を経た後、戦争にヒロイズムを感じる人間はまずいないだろう。
戦争が如何に愚かで酷く非合理的なものか、それを言葉ではなく映像で見せつける。分からせる。
いつの世も命を落とすのは未来を生きるべき若者だ。
そしてその命を踏み躙る愚かな決断をするのは年老いた時の権力者達だ。
このロジックがある限り、時代を経ても愚かな戦争は起こり続けるのだろう。そして新たな命は失われ、永遠に帰ってくることはないのだ。
アバンで描かれたとある兵士の死が、まさかあのエンディングに綺麗に繋がるとは。
戦争の本質を示唆した巧みな演出は本当に見事だった。
アカデミーノミネート作品、この機会にぜひ!