「全戦異状あり」西部戦線異状なし 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
全戦異状あり
戦争をドイツの視点から描く。
と言っても第二次大戦ではなく、第一次大戦。あの独裁者は生まれていたが、まだ政治の世界に入る前。
第3回アカデミー賞で作品賞を受賞し、名高い反戦映画の名作を、原作と同じ本国ドイツでリメイク。
尚、原作未読。昔の映画も未見。初めて“西部戦線”へ。
親の反対を押し切り、書類を偽造してまで、青年パウルは戦争へ。
国や周りが闘っているのに、自分だけじっとしていられない。
軍上層部も2週間で敵は墜ちると豪語。
意気高揚と戦場へ。
そんな浅はかで青臭い闘志が脆くも砕かれるのは目新しいものではない。
が、いつ見ても、どんな作品見ても、突き付けられる。
戦争という地獄を…。
膠着状態続く。
塹壕に身を隠し、響き渡る敵の銃声、砲声。
爆発や死がすぐ隣に。
仲間も次々命を落としていく。
赴いて初めて知った。戦争の現実を。
そこには掲げた理想も正義も秩序も理性も微塵も無い。
顔身体中泥や血にまみれ、過酷と恐怖に迫られ、今にも気が狂い出しそう。
先に気が狂った方がまだマシかもしれない。
こんな状況下でずっと恐怖でいたら、生きている心地がしない。生き地獄。
2週間なんてとうに過ぎ、2年経っても終わりが見えず…。
そんな中でも、気を紛らわす事が出来るのは、仲間との交流。
他愛ない話をしたり、食糧にありつけたり…。
前線で食糧の配布なんてない。現地…つまり、敵陣にて調達。銃をぶっ放してくる農夫から逃げおおせ、カモをゲット。
盗みは罪だけど、こんな地獄で生きていくには仕方ない。
が、終盤、同じシチュエーションで…。
仲間の死は辛い。それを目の当たりにするのは特に。
フォークで自分の首を刺し、死を選ぶ。負傷した身体。いつ終わるか分からないこの地獄。こんな世界で生きるよりかは…。
敵兵と遭遇。取っ組み合いになり、短剣で相手を刺す。
息も絶え絶え、苦しそうにもがき苦しむ“人間”を見て、正気を取り戻す。
とんでもない事をしてしまった…。
恐怖と後悔。幾ら戦場での任務とは言え、この手で、人を殺してしまった…。
戦場に転がる敵味方の無惨な遺体…。
毒ガスによって重なり合うように死亡…。
血と唸り声と死が溢れる野戦病院…。
戦争は、全てを狂わす。
戦争を続けたがるのは軍上層部。
が、一部は戦争終結に奔走。
会合での条件はあまりにも不条理なもの。
多くの未来の命を犠牲にし、得たものは、何も無い…。
停戦日時が決められ、後僅か。
やっと戦争が終わる。ここまで生き延びたんだ。死んでたまるか。
戦争で命を落とすのは惨劇。
戦争以外で命を落とすのは悲劇。
食糧調達で再び農家に忍び込む。が、見つかり…。しかも、撃ったのは…。
自業自得とは言え、あまりにもやるせない。
停戦間近で、あちこちで戦闘も無くなり、静かになり…。
そんな時、耳を疑う命令。英雄として帰還したくないか?
敵陣へ奇襲。
後僅かで停戦。
死にたくない。絶対に。
が、戦争の渦中には、いつだって死神がさ迷う…。
軍上層部は前線の事など何も知らない。結果や報告を聞くだけ。
停戦の時刻。戦争が終わった。
後ほんの少しだけ、早かったら…。
周囲に気を付けていれば…。
運が良かったら…。
運はここまで生き延びた事に使い果たしたのかもしれない。
戦争は悲劇でしかない。
戦場の迫力、臨場感は圧巻。
Netflix配信なのが惜しい。劇場大スクリーンで観たかった。
そして恐怖しただろう。考えさせられただろう。
この第一次大戦以前も以後も、現在も戦争は続く。
不条理な理由で。
多くが犠牲に。
人間と戦争は切り離す事は出来ないのか…?
EDクレジットによると、第一次大戦の犠牲者は1700万人以上。
最後に表示されたタイトルが皮肉だ。
西部戦線異状なし。
何処に異状など無い…?
いつだって、全ての戦争は異状ありだ。