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映画レビュー
内戦に苦しむ瓦礫の街の現実を、壁のない家のお茶の間から描き出す。
第35回東京国際映画祭ユース部門で上映されたシリア映画。戦争で瓦礫と化した街。爆弾で壁や天井に穴が相手もなお、自分たちの家に住み続けると言い張る強権的な父親と、外の世界に思いを馳せる娘や妻のファミリードラマ。シュールな設定と切実なテーマ、ユーモアと皮肉とエンタメ感が融合していて、ついイランのモフセン・マフマルバフやジャファル・パナヒらを想起してしまった。ラストは現実の重さに比して甘いと思う人もいる気がするのだが、家族という摩訶不思議な交わりの落とし所として納得したし、映画として希望を捨てたくないという主張でもあり、また作品としての愛らしさにも繋がっていると思う。映画祭で観られたことに感謝しつつ、もっと幅広く鑑賞されてほしい間口の広い魅力があるので、どうか一般公開までたどり着いてくれないか。このまま埋もれるのはあまりにももったいない。
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父親の権力基盤に穴をあけた爆撃
シリアの戦火で自宅が爆撃されて、大穴が空いてしまった家。ここに強権的な父親とそれにうんざりしている母親、そして自由を求めて空想しがちの少女が住んでいる。戦争被害から家族を守るためという大義名分で、女性2人を家に閉じ込めている父親。その家に大穴が開いて、娘は近所の少年と屋上で語らい、妻はこの家をあきらめて避難すべきと主張を続ける。家に大穴が空くことで、女性2人が父の支配から逃れる道筋ができる。必死に家を修理しようとする父親は、本当に修復しようと思っているものは、自身の権力基盤ではないか。家を出てから妻がタバコを吸ったりと生き生きとし始めるのが象徴的だ。大穴の空いた部屋のシュールさは、しかしリアルな戦地の実情でもある。空想的シーンも交えて魂の解放を描いた傑作。