劇場公開日 2023年3月3日

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「「スピルバーグの自伝的作品」という看板が重荷になっていたかな」フェイブルマンズ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「スピルバーグの自伝的作品」という看板が重荷になっていたかな

2023年3月10日
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鑑賞方法:映画館

偶然なのか必然なのか分かりませんが、今年は映画史とか映画人に関する映画が続々と公開されています。1月には数々の映画音楽を手掛けた映画音楽作曲家であるエンニオ・モリコーネの業績をドキュメンタリーで描いた「モリコーネ」が、2月には1920年代、サイレント映画で隆盛を極めていたハリウッドをモチーフにした「バビロン」が、それぞれ日本で封切られました。そして今月は、映画界最大のヒットメーカーであるスティーブン・スピルバーグ監督の自伝的作品である、本作「フェイブルマンズ」が公開されました。映画好きとして、前2作と同様に内容に興味があると当時に、本年度のアカデミー賞候補ということもあって、取るものも取りあえず観に行きました。

まずスピルバーグの自伝ということでしたが、実際に本作で描かれているのは、彼が小学生時代から大学を中退して本格的にプロとして映画界に参入するまでの期間であり、名作の名場面がいくつも観られた「モリコーネ」のように、「E.T.」や「シンドラーのリスト」と言った、スピルバーグが製作した作品については全く触れられていませんでした。さらに、スピルバーグ本人の役どころとなるサミー・フェイブルマン少年が、実は主人公の立ち位置ではなかったということも、中々に衝撃でした。現に本作は、今年度アカデミー賞の7部門でノミネートされていますが、その内訳はと言えば、作品賞、監督賞のほか、サミーの母親役を演じたミシェル・ウィリアムズが主演女優賞、ボリス叔父さん役を演じたジャド・ハーシュが助演男優賞でノミネートとされている訳で、サミー(スピルバーグ)は主役じゃないのです。エンドロールでも、ミシェル・ウィリアムズがトップに出て来てましたからね。

確かに本作のストーリーも、サミー少年がいかにして映画に興味を持ち、どういう少年時代を送り、アマチュア時代にどんな映画を撮ったのかという一般的な意味での「自伝」の部分は、サイドストーリーに過ぎませんでした。メインテーマは、あくまで母と子の葛藤であり、母の身の振り方であり、サミーから見た母の心情の変化だったのであり、映画そのものを真正面から題材にした「モリコーネ」や「バビロン」とは、かなり性格を異にする作品でした。

その結果、若干肩透かしを食らった感もありましたが、映画界の巨人・スピルバーグの自伝としてではなく、母と子の物語として観れば、それなりに面白かったとは思います。ユダヤ系に対する差別が描かれている点などは、恐らくは現代のアメリカ社会にも通じる社会問題でしょうし、両親の離婚が子供に与える影響ということも、家族をテーマとする話として永遠のテーマでしょうし、何よりも母と子の葛藤や愛情物語というのも、これまた永遠に語られるべき話。こうした要素を考えると、「スピルバーグの自伝的作品」という看板が、むしろ本作の重荷になっているような気すらしたところです。

そんな訳で、「スピルバーグの自伝的作品」という看板がなければ評価は★4と言いたいところなのですが、あまりに重い看板であり、こちらの期待が別の部分にも行ってしまっていたということもあったので、評価は★3としたいと思います。

鶏
トミーさんのコメント
2023年4月13日

スピルバーグ自身にまだTHE ENDは無いという事じゃないでしょうか。

トミー