「3.8) スピルバーグと出会い直す。」フェイブルマンズ tsukaregumaさんの映画レビュー(感想・評価)
3.8) スピルバーグと出会い直す。
その幸福感に満ちた傑作だ。
ノスタルジー性を脇に追いやり、気が付けば映画という芸術の持つ「怖さ」が前面に顔を出す。
それでもorだからこそ自分は映画が好きなんだと改めて思う。
私の映画館デビューは父に連れられて観た『未知との遭遇』@新宿プラザ劇場。
少年には難しい内容だったが、私の映画原体験として強烈なインパクトを残した。
本作の冒頭シーンともオーバーラップする、そんな「スピルバーグっ子」の自分だが、正直ここ数年の作品をそれほど好きになれず、本作も期待と不安半々で鑑賞。『プライベートライアン』以来の大傑作じゃないか。
誰しもが持つ、子供時代の秘めておきたい部分。
それを美化することなく(映画として美しく撮りはするが)自己開示する度量の大きさにまずは敬意。そしてその開示は、たんにノスタルジーのためなどではなく「映画の本質」を観客と共有するため。という実に高次元な芸当をやってみせていることに驚嘆した。
映画は真実をばらし、嘘もつける。
少年サミーが最後にそこに気付くというのが、本作の根幹だった。
この気づきに辿り着くまで、彼の類まれなる才能が故に苦労を背負い込んでしまう。
憎きいじめっ子すら、本能的に美しく「撮ってしまう」皮肉。
そしてクローゼットの中で、サミーの母親が独りで観た作品も、ため息が出る程に美しかったに違いない(彼女の表情からそれが分る)。母の頭にこびり付くその残像があの悲しい決断の決定打になってしまったのかもしれない(だとすればなんという皮肉だろう)。
自分の宿命に気付いたサミーの表情が、少年から大人のそれへと変わる。
『E.T.』のラストシーンでエリオットが見せた凛々しさと同じだ。
そして「神からの祝福」を受けた、あのエピローグの何と素晴らしいこと!
あの後姿は70才を越えてなお前を向く巨匠そのものだった。
スピルバーグの過去作を見直そう。
きっと新たな発見があるはずだ。
もちろん新作が今から待ち遠しい。