「愛ゆえに」フェイブルマンズ ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
愛ゆえに
スピルバーグ監督の自叙伝的な作品ということで、全ての監督作は観れてはいませんが、代表作は一通り通っているのでその知識の勢いで鑑賞。
んー…。長さはそこまで感じませんでしたが、物語がそこまで面白くなくてのめり込めなかったです。ウトウトは全くしませんでしたが、最後まで何だかなーって感じが抜けなかったです。
まず良かったところを列挙していくと、学生時代のエピソードで創意工夫を重ねながら映画を作っていく様子はとても楽しかったです。戦争映画を作る際に大手映画を作るには予算が足りないので、地面に仕掛けを作って銃弾に当たった風に仕上げたり、わりかしグロテスクな血まみれな様子を映像に映し出したり、やられ役達が移動を繰り返すなど、しっかりした作品になっている、スピルバーグの原点を観ているかのようで嬉しくなりました。これがサメ映画の金字塔である「ジョーズ」へと繋がっていくのかと思うとワクワクするばかりでした。
街並みのロケーションや音楽も素晴らしく、アカデミー賞にノミネートされるのも納得なくらい心地の良い映像とサウンドに包まれてとても良かったです。
ただ、全体的に母親のしょうもない不倫劇がずっと垂れ流しにされているので、その点はずっとノイズになっていました。スピルバーグの実母をモチーフにしていると思うので、悪く描けないのは分かりますが、自分勝手な母親が父親の親友とイチャつく、引っ越しする際も親友を連れて行かない(正しくは連れて行けない)事を責め立てる、キャンプ場でガッツリ手を繋いで、挙げ句の果てには離婚して親友の元へ戻るという酷さ。これが現実に近いものと考えるとスピルバーグは少年時代相当苦労したんだなと思いましたが、観客としてはそんなものは別にどうでもいいので、映画作りに勤しんだ描写をもっと描いて欲しかったなというのがあります。父親も苦しんでるんだかよく分かりませんでしたし、母親は中々にクレイジーで好きにはなれませんでした。姉妹は良い子達でしたけどね。
ユダヤ人差別とか歴史の授業で習ったくらいの知識なので、住んでいる場所がガッツリ変わるとこうも差別されるんだなと勉強になりました。ただ、この差別が映画作りに活きていたとは思えず、いじめられてた少年を少しだけ見返したくらいなだけなのはどうにもいただけなかったです。こればかりは好みの問題です。
というか後半に差し掛かってから学園ドラマに何故か舵を切ったので、その辺でも面白さが無くなってきたなと思いました。キャリアを語る部分で根幹を作った学生時代を必要とするのは分かりますが、どこかで観たというか観たことのあるアメリカの普通な学園ドラマを今更観せられても…という気持ちに襲われました。
終盤の卒業ムービーお披露目会で、なぜか好かれた彼女に両親の離婚とプロポーズの言葉を同時に渡したらフラれるという急展開には、ん?と首を傾げざるを得ませんでした。宗教には疎いのでそこら辺が引っかかった上での実話だとしても、これまた映画作りには直結しない描写で必要性を感じませんでした。
終盤、大学に行ったら行ったで病んで、映画の道へ進み、ジョン・フォード監督に喝を入れられ名監督スピルバーグへと歩み出すシーンはなんだか煌びやかでした。ここからジョーズを作る手前までを描いて欲しかったなとしみじみと。
2023年に入って多くなった"映画"の映画。どこか捻ったところや尖ったところが無いと退屈に思えてしまう場面が多くなってしまい、今作も例に漏れず。「エンドロールのつづき」と一緒で映画好きな少年の平凡な物語、作っている側の自己満足で終わってしまう作品はどうにもテンションが上がらず…。オスカーがこういう作品を好むのは分かっていますが、そういえば例年のアカデミー賞と相性が悪いのをすっかり忘れていました。このあと出てくる作品にも畏怖しながら過ごしていきます。
鑑賞日 3/5
鑑賞時間 17:00〜19:45
座席 J-23