「草原の記憶、暮らし、家族を繋ぎ止める」草原に抱かれて redirさんの映画レビュー(感想・評価)
草原の記憶、暮らし、家族を繋ぎ止める
モンゴルの映画だから草原で日本語タイトルが、いまいち。でも美しい草原の記録は貴重。
タイトルは臍の緒のようなもののこと。実際や母がいなくならないよう親子で縄で命を守るため繋がっているのだが。息子たちが生まれた時の臍の緒、母が生まれた時の祖母との臍帯。生命を繋ぎ、世代を作り。今は古い写真で記憶を手繰り寄せる手綱。
認知症なのか子ども返りして記憶の曖昧な美しいモンゴルの草原の母。子どもの頃の草原に両親と住んでいたゲル大きな木の下、そこが家だとそこに帰りたいと。
都会でミュージシャンの下の息子。草原の暮らしができなくなったのか望んでかおそらく国家政策及び経済のため、子どもの教育とかもありそうな中途半端な街暮らしの上の息子一家。
下の息子がすっかり記憶の彼方の草原の暮らしに母を連れて帰る。この事で草原のモンゴル人としての暮らし、記憶、家族の系譜が息子の世代にインプットされつなぎとめられる。
草原で知り合った電気屋の娘の家は未だ大家族で羊を飼ってくらす。
いろんな人、酔っ払いの羊飼いとか、
迷い子の羊のために柵を乗り越え入った牧地の主人とか、
息子と母とか、
出会い、別れる時、バシッと重厚な音がするくらいの抱擁をするのが印象的でその力強い抱擁やアイコンタクトにそこに、草原に暮らしてきた、これからはそうもいかなくなりそうなモンゴルの悠久の人々の歩みと記憶を強く押し留めるような強い繋がり連帯を感じた。主人公の親子は夢うつつのなかで母と子が、子と父になり甘美な子ども時代の情景、うっとりするような歌声、さまざまな自然の音、などが去来する。この親子だけではない、電気屋大家族の暮らし方や、母親が袖を通してどうしても欲しいと言った商店の娘さんが母親のために作ったという、丁寧に作られたモンゴル服、など叶うならこのまま伝えていきたいもの、記憶の中でだけでも生き続けてほしいものが散りばめられていてこれが臍帯として幾重にも重なる。かたや、草原に威圧するように屹立する風力発電の巨大風車や民族の言葉を正確に話し警察に通報すると脅してくるドローンたち、結びつけた紐が解けてしまうものたちも、すでにそこに当たり前に存在している。
次に見るモンゴル映画は草原が舞台でも草原なんちゃらというタイトルにならないことを願いつつ。美しい映像堂々たる役者さんたちに感謝。