「劇的な事件は起こらない映画」父は憶えている たきがはさんの映画レビュー(感想・評価)
劇的な事件は起こらない映画
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23年ぶりに帰ってきた父親が記憶も言葉も失っていた、という以上の事件は起こらないし、派手なB.G.Mもかからないドキュメンタリーのような映画という点で成瀬巳喜男の『あにいもうと』を思い出しました。
イスラム文化圏で旧ソ連圏、中央アジアの乾いた風景は日本とは明らかに異なって共通項もありませんが、キルギスの人たちはどこか日本人に似ていて、23年もの時が流れれば、かつての故郷も様変わりしているのはどの国でも似たような事情なのだと思います。
同じ監督の『旅立ちの汽笛』で主演を張った息子さんが今作でも息子の役で好演しています。最初のうちは事情も話さず、ただ村中のゴミを拾い集める父を恥ずかしいと思っていたのに、いつかそんな父を受け入れて、母の再婚を止められなかったことを謝罪するまでになっていくのを見ていると、お国が違えど人間の幸せというのは普遍的なものなんだろうなと思わされました。
最後、やっぱり黙々と木を白くする(キルギスの風習だそうですが)父が、戻ってきた母の歌声を聞いて空を見上げる表情に、この家族の再生という希望を見出して温かい気持ちになりました。
静かに心に染み入る名作です。
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