「現に日本でも起こっている問題」理想郷 ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
現に日本でも起こっている問題
隣国スペインの寒村でスローライフを実現させた元教員の夫婦が、風力発電の賛否をきっかけに野卑で粗暴な地元民の独身兄弟と深刻な対立関係になる。それを移住してきたフランス人の側から描いた作品。
風力発電が村民に一時的にしか利益をもたらさないのは同意するしどう客観的に見ても地元の兄弟の性根の悪さには憎悪しか感じないが、しかし彼らの言い分も分からなくはない。単に外国人、移民と地元民の立場の違いというだけではなくて、移住を実現できるほどだから貧富の差は言うに及ばず、かたや各地を旅した知識階級、かたやこの田舎から出たことがなく、弟の方は美少年だったにも関わらず村の匂いのせいで売春婦にさえ拒否されたという経験を持つ。今のパッと見こそ似たような服装だが、いくら「ここが私の故郷だ」と言われても二言三言話せば通じ合えないことが明白な訳だ。この作品ではSNSが絡んでいないが、コロナで在宅勤務が一般化して、日本でも実際に土佐市で起きている移住者カフェの問題はSNSにより更にややこしくなっている。
この映画は、移住の夫婦のうち兄弟と真正面から対立する夫が主人公となって話が進むが、後半の3分の1くらい?は妻に軸が移って、父親を喪って訪ねてきた娘と母が描かれる。娘から見たら夫に依存してきた母親を理解できないし、荒んだ田舎、信用できない警察のこんな生活は何としても辞めさせたいのだった。しかし色んな経験を経て妻もかなり強くなっていて、性悪兄弟の脅しにも負けない母親を見直す。そしてその粘り強さによって、夫の死の真実に自力で近づく。
兄弟の侵入に反応せず寝ていた犬を役立たず呼ばわりするシーンがあったが、兄弟の弟に懐いているし犬は鼻が効く筈なのに本当に役立たずの番犬だった。