「ぼくらはみんな生きている 生きているからかなしいんだ」山女 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)
ぼくらはみんな生きている 生きているからかなしいんだ
イエス様はおっしゃいました
「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」
U-NEXTで鑑賞
48時間レンタル
ポイント利用
監督と脚本は『リベリアの白い血』『アイヌモシリ』の福永壮志
原案は柳田國男の『遠野物語』
舞台は18世紀後半の東北
18世紀後半というと今ひとつわかりにくいかもしれないが要するに江戸時代である
当時の東北は冷夏によって飢饉に苦しんでいた
所謂『天明の大飢饉』
伊能忠敬でも有名な天明の大飢饉である
ロケ地は山形県各地
鶴岡市と高畠町と戸沢村
粗筋
村で火事を起こした罪で高祖父の代から凛の家では田畑を取り上げられ代々汚れ仕事を任せられていた
汚れ仕事とは主に死体処理である
伊兵衛がまた酷い父親で村の米蔵から米を盗みそれがあっさりとバレてしまい凛が庇うわけだがそれを良いことに本気で何度も何度も娘を殴るわけだ
米盗みの罪は重罪で後日処分が下されるが父は神隠しにあったということにして草履を脱ぎ裸足で山に行く凛
化け物が棲むと言い伝えがある祠の前までやって来た凛は山男に会う
山男は狼を仕留め生食していた
山男に貰った狼の肉を焚き火で焼いて食べる凛
山男は老人だった
山男を好きになる凛
山男と山で暮らすことによって生まれて初めて「人」になった凛
しかしそんな暮らしは長続きはしなかった
マタギの噂で山に山女がいるらしいと聞いた村の行商の泰蔵はそれは凛に違いないと思いマタギたちを連れて山に入り捜索活動
マタギは山男を殺してしまう
凛を捕えられ山に帰される
飢饉をなんとかしたい村人は神頼みで生贄を出すことに
生贄の御役目は凛に抜擢
大好きな山男の元に行きたい凛は気持ち良く受け入れる
生贄は火炙り
しかし突然の雷雨で生贄作戦失敗
凛を恐れる村人たち
山に帰る凛
話が暗い
それ以上に照明が暗い
自然主義だからだろうか
飢饉だがそれでも生きてるからには娯楽がほしいのが人間の性(さが)というもの
しかし貧しい村には娯楽なんてあるわけがない
やることといえば「まぐわい」しかない
もちろん避妊具なんてあるわけがない
どの家も妊娠し出産し淘汰する
その繰り返し
だから凛の家ではわりと仕事がある
東日本には被差別部落はないと言われるがそれでも村八分になった者は珍しくはないだろう
この作品を通じて差別はまるで昔話のように語る者は多い
ストレス解消に弱い者虐めをする
それは現代にも通じる
何も変わらない
あの村人たちと違い金銭的にさほど貧乏でもなく身なりはそれなりに小綺麗でも
学校の虐めや職場のパワハラ等
ヤフコメやXや著名人のSNSに攻撃的態度で正義を振り翳す全く罪の意識がない病的な偽善者にしてもそう
山に住む怪しげな老人を演じたのは森山未來
台詞は全くない
それがかえって良い
村人たちにはさほど怒りを覚えなかった
その時代その時代で常識があり現代人が今の常識で断罪しても当然の事ながら全く意味がない
現代においても不倫とか裏金とか統一教会とか自分の生活には全く持ってどうでもいいニュースばかりだ
野球ハラスメントという言葉があるらしいが東北人の明るい話題といえば大谷翔平くらい
極端な話だが戦争がない平和な国でのんびりと生きていければその他に特に望みはない
現代人の多くは「考えさせる」という割には特に考えることもなく欲深くそれでいて広い意味で超保守的だ
この村人たちは現代人よりバカだけどコメさえ喰えれば幸せというとてもシンプルでその点では昔の人の方が幸せかもしれない
配役
高祖父が火事を起こした罪を背負う凛に山田杏奈
謎の山男に森山未來
凛を慕う村人で馬を連れて行商をしている泰蔵に二ノ宮隆太郎
治次郎の孫で泰蔵と結婚させられる春に三浦透子
飢饉で育てていかないとシゲミの生まれたばかりの赤ん坊を殺す村人の寅吉に山中崇
赤ん坊を寅吉に殺される村人のシゲミに周本絵梨香
村人の角松に川瀬陽太
マタギの親方に赤堀雅秋
巫女に白川和子
村長に品川徹
村長の補佐の治五郎にでんでん
凛の父の伊兵衛に永瀬正敏
凛の弟の庄吉に込江大牙
村人に小野ゆたか
村人の吾作に須森隆文
村人に中崎敏
村人に山村崇子