劇場公開日 2023年6月30日

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「共同体とその外側」山女 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0共同体とその外側

2023年8月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2022年。福永壮志監督。18世紀後半の東北地方は冷害に苦しんでいた。先祖が火事を起こしたことで田畑を取り上げられた一家は埋葬を生業とすることでかろうじて生計を立てているが、村人からは差別されている。ある日、盗みを働いた父を庇った娘はやりきれない思いを抱えたまま、神聖な山に入っていくと、そこには山男がいて、、、という話。
「遠野物語」から着想を得たという山女のはじまりの物語。共同体の中で差別され、蔑まれた娘がそこから抜け出そうとしたとき、神聖な山の中という選択肢しかなかった。そこには人語を解さぬ、しかし(だからこそ)不思議な魅力と力を持った山男がすでにいる。言葉が通じない山男との共同生活は共同体の掟や人間感情とは無縁の原初的なつながりになっていくが、人間は人間の世界に連れ戻そうとする。ところがそこにはいかにも人間らしき手前勝手な理屈があって、冷害を収めてもらう神頼みのため、人身御供を必要としていたのだ。このあたりは「もののけ姫」みたいだ。父と弟のために役目を引き受けて死を覚悟する娘だが、土壇場で「天の配剤」のように救われ、周囲が恐れおののくなか、一人山へと歩み去っていく。
近代の物語によくあったように、「個人」の「意思」として共同体を抜け出すのではなく、山男との出会いや最後の雷雨のように、意図を超えた神的な自然の力によって抜け出すところが肝心。山男を引き継いだ山女となった彼女に手出しする村の者は二度と表れないだろう。
しかし、だからこそ、ラストシーンで人間の世界の軛を離れていく彼女はもっと美しくあらねばならない。後ろ姿の髪の毛が艶やかに光っているとか、真っ白くなるとか。

文字読み