本編のセリフにも「フーダニットはどれもみな同じだ」とか「よくあるフーダニットだろ?」というのがあるが、推理小説で典型的展開をするのをフーダニットと言うそうだ。
『読者や視聴者には、「犯人の正体を推理するための手がかりが与えられ、物語のクライマックスでその正体が明らかになる」といった展開が描かれることが多い。捜査は通常、風変わりな素人またはセミプロの探偵によって行われる。』
(ウィキペディア「フーダニット」より)
語源はWho(has)done it?からきていて、ドイルやクリスティやヴァンダインやクイーンや江戸川乱歩や横溝正史・・・せかいじゅうの多数の推理小説のなかで「さいごにみんなで一所に集まって謎解きが為される」というフーダニットの構成が使われている。
なお同ウィキからの情報だがコロンボや古畑任三郎のように倒叙(さいしょに犯人が明かされて、それを探偵がときほぐしていくやつ)するのをハウダニットというそうだ。
映画ウエスト・エンド殺人事件(See How They Run)は舞台劇周辺でおきた殺人事件を、でこぼこな警部と巡査コンビが追っていくコメディ+ミステリードラマ。
映画中舞台劇のねずみとりはじっさいにあるクリスティ原作の舞台劇で、1953年の公演時を映画の時代と背景にしている。
『ねずみ取りは、アガサ・クリスティによる殺人推理劇。1952年にロンドンのウエストエンドで開幕し、2020年3月16日まで連続上演されたが、COVID-19の大流行で舞台公演は一時中止を余儀なくされた。その後、2021年5月17日に再オープンした。ウェストエンドで最も長く上演され、2022年11月時点で28,915回目の公演が行われており、世界の演劇の中で圧倒的に長い公演期間となっている。セント・マーティンズ・シアターの観客は、劇場ホワイエの木製カウンター(公演回数を示す)の横でよく写真撮影をする。 2022年時点でロンドンでは1千万人がこの舞台を見ていると言われている 。』
(Wikipedia「The Mousetrap」より)
フーダニットの舞台劇周辺でおこった殺人事件をフーダニットで語る映画。そこに先輩と新人のバディ値をからませた。抜けきらないが丁寧な映画で、A~Fまでのスケール中B-の肯定評(by CinemaScore)は頷けた。
ただし、不慣れな新人巡査役という設定のローナンが(個人的には)圧倒的なミスキャストだった。ロックウェルのヨレた警部役はそのままだからいい。だがローナンの顔からは賢さしか読み取れない。「ちょいちょいドジを踏む新人」という定型配役に振るには真逆のパーソナリティ。コミカルな台詞がその陶器のようなゲルマン顔をつるつるスベった。
ところで先ほど引用したウィキのフーダニットで以下の記述を見つけた。
『イギリスの殺人ミステリーにおけるありきたりさに反発したのが、レイモンド・チャンドラー、ダシール・ハメット、ミッキー・スピレインなどに代表されるアメリカの「ハードボイルド」犯罪小説であった。舞台はより荒々しく、暴力はより多く、文体はより口語的だが、プロットは多くの場合、「居心地の良い」イギリスのミステリーとほぼ同じ方法で構成されたフーダニットであった。』
(ウィキペディア「フーダニット」より)
進歩的な作家がありきたりな種明かしの構成をはげしく嫌う──という現象は聞いたことがある。ただし推理小説というものは、種明かしをしなきゃならない。だからフーダニットを嫌って変則を加えてもけっきょくフーダニットになることに変わりはない──ということを上記は述べている。
とはいえフーダニットとは終局に応接間に集まって探偵が詳説する──といった典型的なものを指して言うのだ。
ロックウェルが演じたストッパード警部は世やつれと諦観がありチャンドラー風だった。生粋のアメリカ人ロックウェルを、ロンドンの警部役に充てたのは反フーダニットのアクセントだったにちがいないし、フーダニットな空間設計を懐古しつつ皮肉った映画でもあった。
なおU-Nextで399円でした。