「鬼が本性を現すまで」Pearl パール 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
鬼が本性を現すまで
映画紹介サイトで本作が「ホラー」と分類されているのを散見しましたが、実際観てみるとホラーというよりはサイコスリラーに分類した方が良さそうな内容でした。確かに残虐シーンはこれでもかと出て来ますが、モンスターやゾンビが理不尽に殺戮を繰り返すというものではなく、第一次世界大戦が勃発して最愛の夫が出征した妻(パール)が、母に抑圧されたり身体が動かなくなった父の看護をせざるを得なくなるなど実家に縛り付けられ、スターになるという夢も打ち砕かれるといった過程で精神が崩壊し、周囲の人を次々に殺していくというお話でした。
残虐シーンにスポットを当てると確かにホラー的な側面もありますが、パールの精神がぶっ壊れるプロセスには一定の説得力があり、誰にでも起こり得る悲劇として捉えることが出来るかと思います。なので、本作の「怖さ」というのは、人間を切り刻んだり串刺しにしたりという視覚的なものではなく、ひょっとしたら明日は我が身かも知れないという意味での不安を惹起させるところにあるように感じました。
そういう意味では、貧困や社会的孤立、エリート層からの侮蔑に対する怒りから殺人鬼と化した「ジョーカー」と軌を一にする部分がありましたが、「ジョーカー」と本作の決定的な違いは、主人公に感情移入できるか否かという点にあるようにも思いました。ホアキン・フェニックス演じた「ジョーカー」のアーサーは、元来虫も殺さぬ心優しい人間でしたが、前述のような境遇に置かれた結果最終的に爆発してしまいました。一方本作の主人公パールは、元々自己中心的な面が見受けられ、また動物虐待をするシーンもあったりと、そもそもあまり感情移入できないキャラクター設定でした。純粋無垢な主人公が、追い詰められ追い詰められた結果「鬼」になったという展開であれば、もっと絶望的な怖さや、逆に「ジョーカー」で感じたような爽快感すら得られたように思いましたが、本作にはそうした側面がなく、後味悪くサイコパスが本性を現しただけという感じでした。個人的には「ジョーカー」的な作りの方が好みなので、少し残念ではありました。
俳優陣の演技ということでは、やはり主人公のパールを演じたミア・ゴスに注目。まだサイコパスというか鬼の本性が全開していない前半では、可愛い乙女な雰囲気を醸し出していましたが、自らの期待に反した状況になるにつれ、表情が文字通り「鬼の形相」に変化しており、ここは見所でした。
エンディングで夫が戦地から帰還した時のパールの表情は、鬼が必死になって本性を隠しているようで、これまた中々興味深いものでした。
何でも「X エックス」というのが本作に先行して公開されており、こちらが本作の後日譚になるとのこと。こちらは未見なので、どんな展開になるのか観てみようと思っています。