「軽妙な作風のようで、宮沢賢治の作品に漂う「死の観念」をしっかりと取り込んだ一作」銀河鉄道の父 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
軽妙な作風のようで、宮沢賢治の作品に漂う「死の観念」をしっかりと取り込んだ一作
予告編、劇場のポスターなどから受ける印象だと、役所広司扮する宮沢賢治の父、政次郎と賢治(菅田将暉)の軽妙な掛け合いが特徴の、気楽に楽しめるドラマのようにも見えます。
実際の本作は、宮沢賢治の一見童話的な世界に漂う死の観念をかなり色濃く取り入れており、陰鬱の淵に立つ場面も少なくありません。それでいて物語がある種の軽快さと明るさを保ったのは、間違いなく役所広司の柔和な表情と少し冗談めいた語り口を織り交ぜた演技が貢献しています。
父親の視点を通して見る宮沢賢治の人生は、稀代の文学者を一人の青年として描いている点が興味深く、宗教にのめり込んで奇行に走る姿、妹トシ(森七菜)との兄妹の関係性をも超えた絆など、宮沢賢治の伝記的な記述だけはなかなか見えてこない、彼の新たな人物像が浮かび上がってきます。また宮沢賢治の生涯に関する出来事や逸話を上映時間の枠内できっちりと整理しているため、彼の人生や作品についてそれほど詳しくなくとも、一人の文学青年とその家族の物語として十分に楽しめる作品となっています。
幾度か登場する火葬場の場面は、回を重ねるたびに少しずつ様相が変わっていくという形で宮沢賢治の死の観念を映像的に表現していて、特に秀逸です!
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