「滑り方が半端ない。名演なのに残念。」銀河鉄道の父 やまちょうさんの映画レビュー(感想・評価)
滑り方が半端ない。名演なのに残念。
原作「銀河鉄道の父」は未読ですが、宮沢賢治先生の「銀河鉄道の夜」他、数作の作品は読了しております。
近年、宮沢賢治先生の生涯は、そのご家族(特に妹であるトシさん)も含めて作品や資料に基づき研究がなされてるのはみなさんもご存知の通りです。
その生涯がドラマ仕立てに脚色され映像化されたのも今回が初めてではなく正直、語り尽くされた感もありますが、今作は原作が直木賞を受賞され、先生のお父上の視点から物語が進行する新しい試みとのことでしたので、期待して映画館に足を運びました。
父親がその妻から「旦那様」と呼ばれる今では想像もつかない明治末期の家父長制が強い、資産家の家庭で育った賢治が、幼少期よりどれだけ父親から愛情を注がれて育ったかが映画冒頭より語られております。生来、賢治の身体が丈夫でなかったこと、また、長男で後継であるから期待していたという理由はあるかもしれませんが、たぶん、それ以上の溺愛とも言えるくらいのものかもしれません。
しかし賢治が学問に励み、海外の文学、先進の思想にふれた結果、思想がより理想追求型になると、当然ですが、現実の商売や家業の存続に重きをおく父親からはそれを頭ごなしに否定され、しばしば、衝突が起こります。父子の愛情の裏返しゆえ、その凄まじさに拍車がかかる様です。うちも同様、親子喧嘩あるあるですね(笑)。
父親としての息子への深い愛情と、家長として家業を維持する義務、その狭間で悩む姿はよく描けていたな、と思いました。
ただ、ここからが問題。
物語の節目節目で事実として起こった重要な出来事を、作品としての名シーン、感動ポイントとして作り込んでられましたが、何かそれが全体的に「唐突」なんです。
事前説明や前振り、伏線張らずにいきなり名場面がガツっとくるからタチ悪いのです。
失礼ですが、から滑りしてるみたいな妙な空気が流れてしまうのですよ。
しかも、役所広司さん、菅田将暉さんとかいずれも名優が、半端ない熱量かつ瞬発力でされるでしょ?
これでは逆に鑑賞者の気持ちが乗らなくて印象が「滑り方が半端ない」になっちゃう訳です。
脚本、演出って本当に難しいから気安く批判したくないけど、名優出演させて彼らの名演があれば多少穴があってもカバー出来る・・・なんてことはありえません。
特に、祖父と対峙する妹のトシさん、いつのまにかこんなに強い女子に?とか、女学校の先生になんでなった?とか。また、いきなりチェロ弾き出す賢治とか・・・そんなの合わせて3分も時間取れば脚本上に違和感なく伏線張れるはず、いや、一言、二言で良いので載せてください。
観客のすべてが脳内補完出来るほど、原作が世に知れ渡ってませんし、宮沢賢治の生涯は認知されてないのだから、ここは留意すべきでしょう。
名優の名演がむしろ仇になるのは、残念でしたね。
展開は早かったですね。僕は個人的に要点だけがガツガツと場面が変わるのはあまり好きじゃありません。
今回の場合どうしても成長はさせないといけないので仕方がないのかも知れませんが、そこをいかに自然に違和感なく映像を作るかというのが、技量なんだろうなぁと思います。
作り手が、重要と思うシーンをつなぎあ合わせた感じがするのがチョット残念です。