「子供ファーストの父」銀河鉄道の父 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
子供ファーストの父
直木賞を受賞した作品の映画化。原作も発売当時に既読し、ストーリーや展開は、原作のイメージ通りの内容であった。『雪わたり』や『やまなし』等、今もなお小学校の教科書に掲載されている宮沢賢治作品。激動の明治、大正、昭和と生き抜き、亡くなって初めて、世に認められるようになった宮沢賢治の作品だが、現在では、、日本を代表する文士として、多くの人に愛され、誰もが知ることとなっている。
しかし、名前や作品はよく知っていても、宮沢賢治自身の事はよく知らなかったので、今回改めて、賢治の父の視線で描かれた本作を通して、宮沢賢治という人となりの理解も深まった。揺らめくランプの炎のシーンが随所に盛り込まれ、当時の日本の原風景が色濃く残る、賢治の故郷と相まって、温かなレトロ感を映し出している。
宮沢賢治の人柄については、「アメニモマケズ・・・」の詩から、質素で誠実で、田畑を耕しながら作品を手がけていたイメージを持っていた。しかし実の所は、質屋の倅で、金持ちのボンボンであること、先見性の無く新しいものに飛びついては失敗を繰り返す、不肖の息子。尚且つ、父に表面では反抗しながらも、実のところはファザコンで、妹への異常な愛情を示すシスコンの意外な面もあり(ただ、映画ではそこのところは、あまり色濃くは出していませんでしたが…)真っ直ぐな心持ちの人であることを伝わってきた。
そんな賢治の一番の理解者で、無上の愛を捧げたのは、やはり父・政次郎であり、その姿は、当時の父親像からしたら、子供の思いに寄り添い、後押しをしてくれる、先進的な子供ファーストの父親であったのだろう。
本作の見所は、やはり賢治と政次郎の親子役を演じた、菅田将暉と役所広司のアカデミー賞俳優同士による、親子愛情劇であろう。賢治のラストシーンは、魂を揺さぶる2人の演技に、熱いモノが込み上げてきた。そんな中で、賢治の妹役を演じた、森七菜の凛とした演技も、印象に残った。