劇場公開日 2023年5月5日

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「父と息子だけでなく、妹と母のエピソードも活きている」銀河鉄道の父 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5父と息子だけでなく、妹と母のエピソードも活きている

2023年5月5日
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宮沢賢治とその父親の話なのだが、物語の前半の見どころを「持っていく」のは、賢治の妹のトシである。
聡明で、芯が強くて、それでいて愛情深いトシを演じる森七菜は、初めて「当たり役」に恵まれたのではないだろうか?
トシが倒れることが、迷走する賢治を文筆家の道へと導くので仕方がないのだが、できれば、もう少しトシの活躍を見ていたかったと思ってしまった。
後半は、売れない賢治を一番の読者として支える父親の話が中心となるが、それでも、ラストに強い印象を残すのは、賢治の母親である。
それまで、ほとんど存在感のなかった坂井真紀演じる母親が、最後に賢治の体を拭くシーンからは、母親の愛情をひしひしと感じる取ることができた。
そして、賢治の死ぬ間際に父親が暗唱する「雨ニモマケズ」の詩を聞いたときには、思わず涙がこらえられなくなった。
それは、この詩が、賢治の生き様そのものだったからなのだが、それだけでなく、これこそが日本人の美徳であると、改めて実感したからでもある。
そこには、令和の時代にも色褪せない価値観が、確かにあると思えたのである。

tomato