「味わい深いヴィラン、もしも続編があるのなら」ウィッシュ ゆうばりさんの映画レビュー(感想・評価)
味わい深いヴィラン、もしも続編があるのなら
なんでも願いを叶えてくれる王国の真実を知ったアーシャが不思議な星、スターとともに自由のために立ち上がる、そんなお話。
水彩画のようなテイストは個人的には好み。とくにヴィランであるマグニフィコ国王と王妃のマントの刺繍は綺麗だった。
ただしこのテイストがややスモーキーで主人公を活かしているかというと疑問。アーシャの髪や肌、服の色は画面に埋没してしまっている。黒髪の有色人種の主人公はこれまでもいて魅力的だったのに、アーシャは髪が重苦しく肌を輝かせない色の衣装を着ている。
この作品の大きな魅力はヴィランのマグニフィコではないだろうか。強盗に家族を奪われた過去を持つ努力家の魔法使いマグニフィコがいちばん恐れていたのは「喪失」だったように思う。
自身が経験し辛かったからこそ二度と同じ思いはしないように、そして誰にもしてほしくないという願いから作ったのがロサス王国作り上げた。しかし「喪失」への過度な恐れが逆に国民に「喪失」を与えてしまった。
マグニフィコがスターの出現で禁書の魔法に手を出してしまうのも、もう何も失いたくない恐怖や焦りもあっただろう。努力してきたからこそ、積み上げたものが一瞬で水の泡になる絶望も嫌と言うくらい味わったはずだ。
最終的にマグニフィコ王は守るべき国民を傷つける悪だが、魔法使いを目指した動機や邪悪な魔法を使うまでの経緯には同情できるし理解もできるものがある。とても味わい深いキャラクターだと思う。
そして、この作品の致命的欠点は主人公のアーシャが精神的成長する描写がほとんどないので共感を得にくいことではないだろうか。
アーシャがマグニフィコの弟子になろうとするのも魔法使いになりたいからではなく、祖父の願いを叶えるための裏道のためと仲間に指摘されている。もちろん一人で魔法の勉強をしている場面もない。実際に祖父の願いを見つけて早々に叶えてくれとマグニフィコに言っている。祖父サビーノが高齢でその日に100歳の誕生日を迎えるのだとしても少し図々しく、マグニフィコも戸惑うくらいである。
マグニフィコや家族に自分の言い分が通らないと家を飛び出し、心の内を歌いながら星に願うとスターが落ちてきて、不思議な力を持つスターとともにマグニフィコに立ち向かう。
一応、最後には彼女も願いは自分で叶えるものだと反省らしきものはするのだが、結局、アーシャはスターに魔法の杖をもらって魔法を使えるようになる。マグニフィコの過去を考えるとアーシャはうまくいきすぎていてバランスが悪かった。また、アーシャの長所という優しすぎるところ、というのもあまり描写されてなかったと感じる。
ラストはマグニフィコが鏡の中に閉じ込められたまま地下牢に保管される。アーシャに協力した王妃が女王になり、めでたしめでたしとなる。が、後味が悪い。
アーシャに言われるまでは王妃も国民も願いのルールに何の疑問も持っていなかったはずだ。しかも強制ではなく任意だったのにもかかわらず、まるで国王が無理やり奪ったかのような雰囲気になってしまったのは疑問だし、国民が国王の悪口を言っている姿も不快だった。他所から来た人も快く受け入れ、住まいを与えて豊かな国にしていたのは間違いなく国王だったはずである。アーシャが禁断の魔法から国王を解放して過ちを諭す、そういうラストであればこれからアーシャが国王の右腕になって、国民が願いを自分で叶えられるように導く、見守るより良い国の未来が見えただろうにと残念だった。
続編があるのなら、アーシャや王妃のいない何百年後の世界で目覚めたマグニフィコが主役で観てみたいと思う。
