「映画かと思ったら何かのセミナーに来たみたいだった」ウィッシュ 思いついたら変えますさんの映画レビュー(感想・評価)
映画かと思ったら何かのセミナーに来たみたいだった
こんな事ほんとは言いたかない。僕は物心ついた時から棚いっぱいのディズニーホームビデオで育った、根っからの自称ディズニーっ子だ。メジャーな長編映画から可愛いおうち、ライオンのランバートまで思い出は語りきれないくらいある。
そのディズニーの100年目、世界中の若手・中小コンテンツが1周年や5周年で盛り上がる中の100年。誰でも名乗れるわけではない100年。宇宙で一度しか来ない100年目の記念作だ。最近のディズニーの不穏ぶりは知りつつも…もしかして、もしかしたらと思うじゃんよ…!
以下、マジでネタバレありありなんで自己責任で。
お話はこう。
ある王様が魔法の力を使って、国民みんなの「心からの願い」を管理していた。人々の頭の中からシャボン玉状にした願いを取り出し、城の最上階に保管して、特別な日に魔法でそれをひとつ叶える儀式をとり行っていたのだ。取り出された人々は願いに思い悩まずに済む、そして無償で願いを叶えてくれると王に心から感謝していた(ええ…)。
主人公アーシャは祖父の何十年来の願いを王に叶えてもらうよう頼むが、王は危険な匂いのする願い(後述)は叶えられないと祖父のシャボン玉を放置していた。ならばせめて返してあげてと頼むも「全ては私が決める」的な言い草で取り合ってくれない。
途方に暮れるも諦められないアーシャは願いを星空に歌う。するとマスコットキャラっぽい星が本当に降ってきて、みんなの願いを取り返したいというアーシャの願いに協力してくれることになる。ここにアーシャの飼いヤギや友達が集まってきて…という感じ。
とにかくストーリーテリングが息苦しい。
上記の周りくどい舞台背景がイマイチ上手く捌けておらず、全〜部セリフで説明してくる。裏設定としてパンフレットにでも書いておけばいいのに、いちいち理屈づけをしてきて言い訳がましい。専門用語だらけのゲームのチュートリアルみたいだが、こっちは自分のペースで読めないので置いてきぼりくらう。ノートをとるのに必死で頭に入ってこない授業風景に似てる。
そのテリングされるストーリーも心地よくない。
ざっとあらすじ書きながら改めて思ったけど、何か大前提の時点で今ひとつ納得いかない。ベラベラと理屈つけられても…願いを忘れるって歓迎するような事か?
王様が何をどうしたいのかよくわからない。冒頭、一応当初は人々の為を思って魔法を学んだものの悪堕ちしていったとのことだが、国民の願いを掌握することに固執する理由が弱い。アーシャの祖父の願いの玉は「音楽を奏でて周りの人に笑顔で囲まれてる」光景を映してるのだが、王はそれを「人々に新しいものを与えたい→それは国への反骨心とかよからぬ影響かもしれない」というトンデモ解釈で危険視する。今後の展開のために無理矢理ひり出した屁理屈って感じ。
あと、何か全体的に説教くさい。森の動物たちが星の光で次々喋るようになる下りがあるのだが、「僕らは何一つ違いはない」的な歌を歌い出す。歌のクオリティは美しいんだが流れとして脈絡がないし、人同士の違いを語るんならまだしも全ての生き物の違いがないは無茶だし、クマと鹿の「食べないでくれてありがとう」みたいなやり取りまで挟まって「そういうのは後でサウスパークとかが大袈裟に茶化す時に使うやつだろ…」みたいな気分になる。前に観たストレンジワールドでも同じようなしゃらくささを感じたが、スタッフはディズニーアニメ見た事あんのか。学べよ!ストレスにならないメッセージの語り方を!
その「僕らに違いはない」要素の一環なのか、余分なキャラが本当多い。アーシャに協力する友達(仕事仲間なのか?わからん)が一応個性色々で6人ぐらい?いるのだが、全員大して面白みがない上に活躍は殆どいっしょくたなんで、イタズラに情報量を増やしてるだけだ。白雪姫の小人リスペクトなのかもしれないが、白雪姫はこんなゴチャゴチャ理屈っぽい話ではないから同じようにはいかない。正直二人いればいい。
そこに山寺声のヤギも加わる…山ちゃんは好きだがこのヤギはマジで要らない。ギャグしか言わないのに歴代ディズニーお笑いキャラの中でも特におもんない。マスコットなら星が先にやってんだから間に合ってるんじゃないのか。その星もディズニーっていうよりサンリオっぽいけど。
結末なんだが、
主人公に呼応するように国民が「願いは自分の力で叶えるもの」と歌い、全員に心の光が灯り覚醒。王の悪しき魔法を跳ね除け、願いを取り戻し、ついでに王は魔法の杖に封印される(ここ、本当についで感がすごい)。
かくして国民は再び願いを生き甲斐に生き生きと暮らすようになるという話で、祖父が早速音楽を奏でて聞かすのだが、昨日まで練習してたんじゃないのかってくらい上手い。願いっていうか新しい趣味だろ。即日叶うようなもんで一喜一憂してたのか。「アーロと少年」のスタンプくらい重みがない。
そのまま締めくくるのだが、こざかしい事にエンドロールで歴代ディズニー映画のキャラがイルミネーションアート風に流れてくる。癪だが、一応誰が出てくるか見てやるかと座っていると結局映画館が明るくなるまで見せられる。まるで本編に感動したから席を立てなかったみたいな絵面だけ作らされる。腹立つわ…
一応、評価した星の一つは映像のクオリティ(それでもディズニーにしてはちょっと…という部分はある。目元の涙袋が貼り付けテクスチャっぽく見えたりとか。)、もう一つはヒロイン役(ちなみに吹替で観ました)の歌唱力、演技力に贈る。「ミュージカル」をやたらプッシュしてるだけはあり、字余りがちな翻訳詞も(少なくとも映画館の音響では)そこまで気にならないぐらいには聴かせてくる。主人公のアーシャはムーランやモアナのようにシリアスとコミカル両面を持っているのだが、演技も上手く乗りこなしてる。あと僕個人としてはヒロインのルックスは好み。…ルックスはね。
総合すると、いまいち飲み込めない説教じみたストーリーをすごい説明セリフで全部口で伝えられるような映画。セミナーだよこれじゃ。ただし歌と映像は美麗。
あ、あと本編前にディズニーオールスターのアニバーサリー短編みたいなのが流れて、まあこれはそれなりに楽しいんだけど、ディズニープラスにもあるんでそっちはリピート再生し放題です。
最初に言った通りディズニーに本当にお世話になった身としてこんなこと言いたかないんだけど、その「お世話になったディズニー」はもしかしたらもういないのかもしれない、とこういうのを観ちゃうと考えてしまうのだった…。
****追記****
一晩寝て振り返ったのだが、自分の学生時代を思い出してしまった。
人より絵が描けるオタクで、よく周りにノートに描いた漫画を見せてた。お話作りの勉強を何も積まない上での漫画なんで設定も展開も独りよがりでご都合主義もいいとこなのだが、友達は(素人にしちゃ)上手いね面白いねとチヤホヤしてくれたものだ。
何かこの映画って、その匂いがする。そういう成功体験をした子供が、挫折や反省のようなブラッシュアップを経ずにいきなりプロの資格だけもらってアニメ作ったような、そういう押し付けがましい好き勝手さでできてる。
チェックする大人たちは物語性の向上に興味がなく、動物の無害さを強調しろとかハンサムを信用するなとか、極端なメッセージやエクスキューズばかり付け足してきて見づらさを加速させる(例えばネズミが女王に耳打ちする時、わざわざ「私、清潔なネズミだから安心してね☆」って口頭で言ってくる。マジであらゆるメディアがブラックジョークとして揶揄してきた描写そのまんまじゃねえか)。結果、取ってつけたような悪事を取ってつけたような美辞麗句で撃退する、実が伴ってないお話のガワだけが出来上がっていく。
それをファンタジックなキービジュに集まった親子連れやカップルが鑑賞し、胸中は是か非か、無言で退室していく。
これが100年目のディズニーの姿と推理するのだが...外れてて欲しいよなぁ...。
>なんか、もっとワクワクさせて欲しかったんですよね…
返す返すも苦い気持ちです。
ほんの何年か前までは確かなワクワクが約束されたブランドだったんですけどね...僕の目には、エンタメに成りすました別の何かに思えてなりません。